15 不穏な雰囲気

結局パソコンからの情報は一切出てこなかった。

「うーっ。くそ。」めげずに地元〇〇町の事件歴を探してみる。が、立ち上がって並んだ本棚を歩くがすぐに立ち止まる。無論ここは過去の資料がある警察署ではない。かといって警察に聞くのもなぁ。関係者以外は機密事項だし。なんか怪しまれそう。ひたすら思案しながら横の本棚をゆっくり歩く。事件があったならネットで検索すればすぐヒットするはずだ。地名と有名な北条家なら尚更。


〈1時間経過・夜20時〉

とにかく僕はこの町に関することをネットと本から探し続けた。歴史、建築場所、地名、橋の創設等。しかし、北条さんに関わることが全く出てこない。橋で事故が起きたことすら。パソコンの前で座って考え込んでいると、突然上から音が鳴った。ポーン。「ただ今20時になりました。これより△△図書館を閉鎖致します。ご来場の方は荷物等をお忘れなきよう…。」もうこんな時間。これ以上調べるとなると、聞き込み調査や川の身辺を徹底的に行う必要がある。もしこれでも駄目なら。万事休すか。カバンを持って図書館を出て文化会館の廊下に着く。左には地下から5階までの階段通路があり。丁度一個上の事務所に聞いてみようか。すると。階段から誰かの降りてくる足音が聞こえてきた。

コツンっ。コツンっ。あ、誰か降りてくる。コツンっ。コツンっ。やけにゆっくり降りるなぁ。足腰が悪いのかなぁ。コツンっ。コツンっ。音は下の一階にいる僕に近づいていく。「何か、変だ。」咄嗟に階段通路に寄り上を見る。「っ!?」誰も、いない!?しかし、コツンっ、コツンっと足音はする。まさか、幽霊!今更恐怖心はない。何度も実際に会っているからだ。足音は大きくなっていく。ハイヒールを履いた人?女性か!突如足音は止まった。後ろから気配がした。廊下のっ!反射で後ろを振り向く。目の前には知らないメイド姿の女性がいた。流菜さんじゃない。

「どなたですか?」顔は俯き、何だか黒く淀んだ雰囲気が彼女から漂う。『………。』答えない。顔は俯いてるせいで髪が掛かって見えない。

「誰ですか?なぜ僕に会ったんですか?」『………。』沈黙が続く。目の先にいる彼女を見ていると次第に背中や頭から汗をかいてくる。やばいかもしれない。関わってはいけない恨みを持った霊に偶然鉢合わせたのかもしれない。思考が早まり、心臓の音が響く。逃げたい。でも、動けない。立っているまま、身体が硬直している。周りの電気は着いたまま。「くっ。っ。ぎぐ。」口が開かない。彼女の得体の知れない黒い雰囲気が恐怖心を与える。金縛りではないのは断じて理解できた。目が離せない。心臓が飛び出そうなくらい鼓動が早まる。ふーっ、やばいー!彼女を見たまま意識が薄れていく。やば…い。目…がとじ…て。……バタンっ!!


《間》

光が強くなる。眩しい。ハッ!

目が開く。身体をビクッと起き上がる。図書館でパソコンの前に座っていた。……。無意識に目を左右に向けるが誰もいない。多分。パソコンのホーム画面に隅に小さくある時間を見る。19時59分。あれ?「すーっ。」息を吸って吐く。夢だったのか?でも、やけにリアルだったような。ポーン。ひっ!「ただ今20時になりました。これより△△図書館を閉鎖致します。ご来場の方は荷物等をお忘れなきよう…。」思わず館内放送にビックリする。

カバンを持って図書館を出て文化会館の廊下に着く。左には階段通路。地下から5階までの階段がある。何も音はしない。2階の、一個上の事務所から40代男性らしき2人の笑い声が聞こえる。きっと残業中に軽い休憩を挟んでいるのだろう。そう思って文化会館を出る。

外は繁華街の通りなため少し明るい。田舎寄りの町だから人通りはほぼないけど。歩いて帰る。帰っている途中橋を渡るが、夜なのか何も起こらずに静かだ。夜は流菜さんと会えない。団地に着いてエレベーターで上がって家のドアを鍵で開ける。ガチャ。

「ただいまー。」リビングには父さんと母さんがテーブルの前で座りながらテレビをを見ていた。気づいたのか二人して僕に顔を笑顔で向ける。「おかえりー。」「もしかして残業だったの?」「あ、いや、ちょっと近くの文化会館にある図書館に寄ってた。」「そうなんだ。あんまり無理せずにね。」「ああ。今日はそんなに忙しくなかったし。ん?」あれ?思い出すように頭を上に見る。何か図書館であったような?いや。読みたい小説に巡り会えただけか。それに橋を渡っている時何か思っていたようなぁ。まあ、いいか!

その後、僕は平凡な日々を送る。何か大事な、とても大事な、誰かのためにと役立てるようなことを忘れてしまいながら。

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