14 何も無い自分だからこそ
《現在・r、北条流菜と2度目の対面》
「なるほど…。辛い時期があったんですね。色々話してくれてありがとうございます。」『いえ、こちらこそ長々と聞いてくれてありがとうございます。』「そんな。」『そろそろ時間的にもここまでですね。』「はい。明日までに考えておきます。」周りの霧が晴れていく。会社に向かい歩み寄る。会社に着くまで、まずは北条さんの生前話をまとめる。
「んーっと。」両親は頭も良く仕事も完璧で非常に合理的。それとは違い、娘である北条さんは頭脳も価値観も普通。また、メイおばさんはフランス王家の血筋。というか、この前仕事で椅子届けた人がメイおばさんだったとは。どうりで高い椅子を買ったわけだ。お金の面ではちょっと羨ましいなぁ。
マナさんについては、船の事故で亡くなって、自分が死んだことに気付かず海岸まで魂を彷徨って当時小学生の北条さんに会った。最終的にマナさんが北条さんを助け、フランスへ向かい、一時滞在してたメイおばさんに頼んで無事両親からの虐待に逃れた。その後一年フランスで過ごし、日本へ帰国。帰国後、マナさんが幽霊だったと2人に伝えて去っていった。
時間が流れて、今から2年前。北条さんは仕事終わりに車で帰る途中、身体を操作されて今いる橋に落ちて亡くなる。橋から落ちて幽霊になり、黄泉に向かわれると思いきや、地縛霊にされた。そして、橋から助けを求め、たまたまそこに朝毎日歩いていた僕に会った。
現在までの時系列だとこんな感じか。会社に着き、事務所で同僚や上司と挨拶を済ませて自分の席に座る。「でも一体誰が、北条さんを。」可能性がありそうなのは両親。でも両親はまだ生きているし、生者が死者に地縛霊にさせることはできない。いや待てよ。生者でも生者に呪いを与えれる。仮に両親が別々で刑務所で暮らしいて、北条さんが生きてる時。つまり、仕事帰りに身体を操作され事故に遭わされたのが両親どちらかの呪いによるものだとしたら!そして、その呪いのプラス効果で、死なせた者はそのまま地縛霊になるとしたら!ありえなくもない。刑務所で本を借りることは可能だ。呪術本なんて容易い。「いや、考えすぎか。」とりあえず仕事仕事。
〈仕事が終わり〉
いつものように歩いて帰るが、帰り道を変えて近くの文化会館に寄る。中に入ると図書館もあるため、向かう。パソコンスペースもあり、調べてみる。Gheegle。〇〇町北条家監禁事件。事件にもなったし、あのメイおばさんが動いたなら記事なんてすぐに出てくるはずだ。しかし、記事は一切出てこない。有名な事件の内容ばかりある。あれ?僕は改めて町や北条家についてやメイおばさんのことを検索してみるが全く出てこない。おかしいな。座っているまま、顔を上げてふと振り返る。
僕が高校生の時、この町にある豪邸の北条家は有名であり、時折り噂を聞いていた。今思うと、どの噂も病院で務める両親のことだけだった。娘がいることは知っていたが、どんな人物かまでは噂には上がっていなかった。初めて橋で対面した際名前を聞いて薄々感じていた。もしかしてあの北条家の娘ではと…。そして、話を聞いて驚き、薄々予感していたことが当たったのだ。僕は極端に貧乏ではないが、働かなければ今後生きていくのが厳しくなる家柄だ。おそらく、世間的にも大体が当てはまるだろう。日々自分の命を削り、面倒だと思って仕事をする。もちろん、そうでない者もいる。ただし、夢を叶えた場合か快適な職場環境に限る。もしくは、お金持ちか。やはり、この世は理不尽で不当だ。ましてや、自分から何にもやる気を起こさず、受け身で、選択を誤った僕なら。今でもそう後悔する。たがらこそ、金に困らない家系は昔から羨ましいと同時に妬ましいと思っていた。確かに、北条さんは家柄が良くて小さい頃から欲しい物も簡単に手に入っただろう。でもその分、親から子による受け継ぎの使命は責任重大で、果たせずに虐待を受けた。一時は自己の人生を縛られていた。逆に僕は、多少貧乏ではあるが、何事も無く親から愛情を受けて育てられてきた。その分、周りから流されて、合わない大学に入って崩れた。北条さんと僕は、互いに良い面もあり悪い面もある。結局全てが安定しているなんて有り得ないんだ。総理大臣でさえ批判も喰らうし。考えれば考えるほど、今の世の中を嫌いになる。それでも僕は、最近世の中が嫌いだとは思わなくなってきた。確かに大学生の時1番辛かった。夢もたくさん諦めた。
でも僕より辛い人は多勢いる。
世界には未だに戦争があり、貧しくて学校すらなく、勉強もろくにできない者がおり、そんな国や地方がある。10代を迎えずに亡くなる者や障害を抱えている者もいる。親、親戚、友達が毒を与える者だっている。当然北条さんも当てはまる。そう振り返ると、案外僕は恵まれていたんだ。実際、今の職場も過ごしやすい。それだけで幸せ者なのかもしれない。ただ単に自分を責めて希望を失っていたようにもみえる。「バカだな。もっと早く幸せだったことに気付いていれば違う人生を歩めたのかな?」つい小さく独り言を述べる。だからこそ、ちょっとでも長く生きよう。誰かを幸せにすることは簡単じゃないけどできる。ほんのわずかでも、相手を窮地から救うことだってできる。僕はよく優しすぎると言われるし他人を気にしすぎてきた。それ故に相手を傷つけるのは理解できない。
また、今は実家暮らしだけど、食器とトイレ掃除、洗濯、スーパーの買い物はなるべく率先して手伝っている。それだけでも充分親孝行だ。僕はこの25年間親にたくさん支えられてきたはずだ。今もね。だからこそ、少しでも恩返ししていきたい。仕事でも家具を運び、ある意味他人の生活を支えている。役に立っているとちょっとは感じる。僕は何も無い。空白の自分だからこそ、誰かの役に立ちたいと今は思える。北条さんも救いたい。マナさんみたく!そして必ず犯人を突き止める!
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