第21話 オアシスの街

 ハッパ砂漠オアシスの街に入った瞬間に違和感だらけとなった。


「ほら心を込めて作業するのだ! 女帝様がお眠りになる聖墓標作りに参加できるお前らは幸せ者だ!」


 パシーン・パシーンとムチを叩く音が街に響き、街の中では大きな石材をコロの上にのせたくさんの人々が運んでいたのである。


「オアシスの女帝って女王様の事ですよね」

 フレイアが疑問に思って俺に聞いてきた。

「いや、確か美しく優しい女王様だと聞いていた」

「様子がおかしいっすよ」


 ゲーム内ではこの女王様は悪魔に心を乗っ取られそうになっていて、勇者一行が真実のマスクを使い女王様の心の闇を取り除く事で危機を脱するシナリオになっていた。

 自分の闇に気づかされた女王はカヤク工場宛てに手紙を書いてくれて、門外不出のカヤクを分けてくれる事になる。


 でも今回はなんか既に闇堕ちしているっぽいのだけど……。


「何だお前ら!冒険者か!」

 衛兵の一人に呼び止められる。

「ここに来ればカヤクを売ってくれると聞いて来たのだが」

「はぁ?カヤクを売るわけがないだろう! 用がないならそこに居られると作業の邪魔だ!どこかへ行け!」


 一方的な衛兵の態度を見て、場所を変える事にした。


 でも女帝様の墓標と言っていたが、女王様が死んでしまったのか?

 それだとシナリオががかなり変わると思うのだが、どうなるのだろう。


「エド、とりあえず女帝に謁見してみるのはどうでしょう」

「そうだな一度本人に会って話しを聞いてみた方が良いかもしれない」


 勇者特権で本来なら正式に手続きをしないと出来ない事もある程度の事なら手続きなしに許可されている。

 王への謁見などが自由にできるのも勇者の特権の一つである。


 砂漠のオアシス、砂漠の中の広大な湖に出来た街であり豊富な水を求め砂漠を旅する人達のまさにオアシス。

 湖畔の横には美しい城があり、なぜかその隣りに大きなピラミッドのような物が建設中なのである。


 謁見の間に入ると即、違和感があった。

「エド、なんかヤバイっすよ」

 聖職者のセレスは露骨に異常状態を感じている、そりゃ俺だって違和感があるから、聖職者ならなおさらだろう。


 謁見の間自体はどこにも変化はないが、もともと女王が治めていた国なので花などで飾り付けられた明るい雰囲気の謁見の間であり、その雰囲気は変わらない。


「あれは美しい花ですが、猛毒があるので危ない花ですわ」

「エド、あっちにあるのも毒草です」

「あそこの白い花は幻覚作用があるから特定危険物に指定されていますわ」


 綺麗な花にはトゲがあると言われるが、謁見の間にあったのは危険物に指定されている草花ばかり。


 その草花に囲まれながらうっとりとしている女が女帝と呼ばれる人であった。


「勇者一行よ、よくぞ来られた歓迎しよう、ちょっと体調が悪くての……直接顔を見せられん」


 目の前にいる女帝は帽子のような物を深く被り、顔に布を垂らしている状態で目元だけが見える状態となっている。


 ただその僅かに見える目元には生気は感じられず、顔色も恐ろしく悪い。


「実はカヤクをわけてもらいたいのです」

「それは出来ん、門外不出でのそればかりは勇者殿の頼みでも聞くことは出来ないのだ」

「それは残念です、でも世界を救う為に是非お願いしたいのです」

 食い下がる俺を見た女帝は少し何かを考え、何かをひらめいたかのように返答する


「では少しお願いを聞いてほしい、オアシスの北に地下墳墓があるのですが、そこに真実のマスクが封印されています、その真実のマスクと交換ではどうでしょうか?」


 このシナリオだと墳墓に入るには鍵が必要だったようだ。

 話がトントンと進み墳墓の鍵が宰相から手渡され、真実のマスク探しへ出掛ける事になったのだ。


 ・・・・

謁見が終わり私室にこもる女帝の体からは黒い羽が生え、黒ずんだ体が現れる。


『私では墳墓の仕掛けが解除できないからな、勇者に真実のマスクを取りに行かせてあとは殺せばいい、 真実のマスクさえなくなれば俺の正体に気が付く奴は居ないだろう、勇者が居なくなった後で人間共を私の餌にしてやるわ』

 ・・・・


 謁見の間から出るとセレス・インテグラ・フレイアの三人が女帝について話を始めた。


「やばかったっすよあの女帝、狂ってるっすよ」

「謁見の間に特定危険物に指定された草花を飾り付けるって異常ですわ」

「顔色も悪かったみたいです」


 確かに様子がかなりおかしかった。


「とりあえず城の中で女帝の話はやめよう、街に出て情報収集だ」


 ・・・・


 オアシスの街には奴隷のような人々が石材を運んでいる。以前はピラミッドのような物はなかったので街の様子を調べる事にしたのだ。


「オイお前、街の中でコソコソと動くんじゃないぞ!」

 城を出る時に衛兵に釘を刺されるように警告されてしまう。

 以前はこんな街ではなくオアシスのある美しい街だったのだ。


 街に出ると住人達の表情に生気が見られない。

 全員がやる気をなくし日々をただ生きるためだけに生活をしているように見える。


「活気がないですわ」


 教会に近づくと泣き声や話し声が聞こえてくる。

「お父さんが死んじゃった……」

「あの女帝のせいよ、毎日寝ずに石材運びなんかさせて」

「奥さん、そんな事を言ってはいけないよ、衛兵に見つかったらあなたまで殺されてしまうよ」

「うわーん」


 セレスが教会の前で親子の様子を見ていた女性に声をかける


「どうかしたっすか?」

「旅の聖職者様ですか、どうか親子のために祈ってやってください」

「噂ではオアシスの女王は心優しい女王様と聞いていたっすけど」

「女王様が病気になられ、女王様の姉妹と言われる今の女王様がこの国を治める事になったのだけどね、前の女王様がもうすぐお亡くなりになるかもしれないと、あんな墓標を作り始めたんだよ」

「それは前の女王様の決定っすか?」

「そんな事ある訳ないじゃない前の女王様はこんな事をする人ではないわ、今の女王が女帝と名乗るようになってから急に国がかわったのだよ」


「そうっすか、事情はわかったっす」


「旅の聖職者様、こんな話を衛兵に聞かれたら牢屋に入れられてしまうから注意するんだよ」


 女性はその場から去って行った。


「エド、女帝はヤバイっすよ」

「街の様子を見れば大体わかるけどな、注意して進もう」


 そのあとセレスは親子とその父親に祈りを捧げ次の目的地へと移動したのだった。

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