第10話 魔法の鍵をもらおう

「珍しいな客か?」

「すまんな、爺さんは居るか?」


 俺達を見たドワーフの男はハンマーを置き、こちらに来る。


「爺さんに用か、ろくなヤツじゃないのかお前」

「俺は勇者エドだ、街の人に聞いて魔法の鍵を作ってもらいにきた」

「おいおい、お前本当に勇者か?何年前の話をしているんだ」


 本当に勇者か?と聞かれた事でメイアが不機嫌な顔になるが、頭に手を置いて大丈夫だと声をかけると、メイアは落ち着きを取り戻した。


「爺さんは五年前に死んだよ、今魔法の鍵を手に入れようとする奴等はロクなヤツが来ない、爺さんの鍵は盗賊の鍵とまで言われちまったんだぜ、爺さんもおかしくなっちまったんだ」


 ドワーフの若者に聞くと、勇者と名乗る男女がたくさんこの洞窟に現われるようになる。

 魔王が討伐され平和な世の中になっても魔獣の被害はそれなりに出ていたのだ。


 ドワーフの爺さんは世界平和のためと魔法の鍵を勇者と名乗る男女達に渡してしまうのだが、魔法の鍵を受け取った勇者が勇者業を挫折して辞めてしまう事が多発する。


 元勇者達が不要になった魔法の鍵を道具屋に売る事件が発生。


 道具屋はそれを別の人に売ってしまいそれが盗賊に流れると盗賊がやり放題になってしまったそうだ。


 現在の扉は初期の魔法の鍵では開かないように改良され、当時の鍵では開かない。


 ゲーム中のシナリオが若干変わっているな。


 ・・・・


「俺は正真正銘の勇者エドだ、名前くらい知っているだろう」

「ああ、エドの名前なら知っている俺も爺さんのそばでエドを見ていたからな、ただお前十年も行方不明でオッサンだろう、今のお前を見て信じろって方が無理があるぜ」


 ドワーフ青年の不快な発言を聞いたメイアの堪忍袋の緒が切れてしまう。


「お兄ちゃんこいつブッ飛ばすのだ」

「おいおい物騒な事を言う女だな、勇者パーティは荒くれ者と一緒か? 俺はそんな奴等に何をされても鍵は作らないぜ、家族もいない独り者だから失う物もなにもないのさ」


 ぶっちゃけ鍵がなくても何とかなる。

 開発コンソールを使えばどんな扉も解錠可能だし、魔法使いのインテグラがレベルを上げれば解錠魔法を覚えるからだ。

 解錠用コードはそれほど重要なコードでもないので俺の記憶にはない。

 だからと、そこまでレベルを上げるのはこのフィールドでは何ヶ月かかるか想像もしたくない。


 開発コマンドで経験値やレベルを書き換えても良いのだが、ステータス書き換え系のコマンドは残念ながら覚えていない。


 面倒な事になっているが、イベントが詰んでしまうので別のシナリオがあるはずだから、ドワーフの青年に丁寧な口調で代案を出して貰うようお願いしようと思ったら、パーティメンバーが勝手に話を進めた。


「どうすれば勇者だと認めてもらえるのですか?」


 インテグラがドワーフの若者に質問をする。

「美人の姉さんに聞かれたら教えてやるか」


 ドワーフの男はインテグラを見ながら少しだけデレッとしていた。

 これで良いのかと意外とチョロい。


「この洞窟の先に蛇の化け物が定期的に沸くんだ、倒しても新しいやつがすぐにやってくる、かなり強い魔獣だが、こっちには来られないようだから放置している、そいつを倒してみろ、実力の証明だ」


 このイベントは知らない。

 たぶん三周目のハードコアから追加されたイベントなのだろう。


「大丈夫かエド、蛇の化け物ってこの辺では聞かないからな」

 フレイアが心配そうに俺に話しかけるが、俺は大丈夫とハッキリと答えた。


 若いドワーフに指定された方向を進んで行き一本道で迷うことはない。

 ゲームではカウンターにドワーフ爺さんが居て通れなかった場所だ。


 このゲーム、こんな所まで考えてマップ作りがされていたのかと別の意味で感心した。


「お兄ちゃん気を付けるのだ、変なのがいるのだ!」

 ライトの魔法で照らされたのは体長五メートル以上ある蛇ではなくミミズのような化け物だ。


「ダートワームだ」

 次のフィールドに出てくる雑魚キャラだが、ここで現われるのは想定外の強さのはず。

 他の勇者達がこいつに勝てるとは思えない。


 こいつの推定討伐レベルはLV8以上だ。

 なんて鬼畜な設定なんだ。


 でも俺達の場合は関係なかった。

 戦闘が開始すると全員がクリティカルヒットを連発。

 しかも必ず先制攻撃が有効になっているので敵は二ターン目も動かない。


 このゲーム、先制攻撃が有効になると敵は驚いている状態なので、こちらが二回攻撃しないと動かない設定になっているのだ。


「あいつ反撃して来ないっすよ!」

「なんで反撃して来ないのだ!?」

「構わないからそのまま攻撃をつづけるのですわ!」


 動かないダートワームに対してクリティカルヒットを連発する仲間達。

  ダートワームがメタクソにやられていき、討伐終了。


 レベルアップの音が響く。


 ゲームではあの有名な効果音が鳴るが、これはゲームではないので脳内に響く感じ。今日は何度も響いていたが、彼女達の反応はないので彼女達には聞こえてないのかと思う。


 アイテムバッグからゲームコントローラーを取り出しレベルを確認すると


 エド      LV10

 メイア     LV9

 フレイア    LV15

 インテグラ   LV9

 クリスティーン LV10


 と結構成長しているようだ。


 倒す事に成功したので、ドワーフの若者の所に戻ろうとすると洞窟の影からドワーフの若者が現われた。


「確かに見させてもらった、一方的な戦い方だったな、他の勇者は何度も倒れていたから俺は棺桶を外に運び出す仕事もしていたんだぜ」


「見ていたなら話は早いだろう、俺達の事を信じてくれたか?」


「ああ勇者エドお前こそ本物の勇者だ、この改良版の魔法の鍵をやろう」


 ドワーフの若者はポケットの中から鍵を取りだすと俺に手渡した。


 無事に魔法の鍵(改)を手に入れドワーフの洞窟を無事に脱出したのであった。

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