第3話 開発コンソールは有効だ

 街から出ると草原が広がっている。

 海の向こうにある山岳地に大きな城が見えるが、その城がこの世界を混乱に陥れている魔王の住処だ。


 目視で見えるほど近くにあるので船をつかって海を渡り、そのまま攻め込むなり突入すれば良いと思うが、なぜか海は渡れないし王様は船を作らない。


 まぁ出来ない事を考えても仕方ないので、草原を見渡すと所々に棺桶が転がっている。


「あれって棺桶か?」


 凄い嫌な顔をしているセレスが答えてくれた。


「ああ勇者が死んだっすね」

「なぜ棺桶になっている?」

「勇者と勇者パーティは死ぬと棺桶になって教会や魔法で復活できるっす」

「えっ?そんな事になっているのか?」

「あの棺桶の中身は多分一人で出発して殺されたっすね、回収する仲間が居ないから放置っすよ」


 セレスは遠い目をしながら棺桶を見ているが気持ちの切り替えが出来たのだろう。


「そのうち国の棺桶回収係が来て回収されますから気にしなくても大丈夫っすよ」


 ゲームでも死ぬと棺桶になる仕様だったが現実? で見るとすげぇシュールな世界だ。

 ゲーム上で全滅すると強制的に王様の前で復活して「死んでしまうとは何事だ!」と怒られたあとに説教を受け冒険の旅に戻るのだけど、実際は回収係に回収されていたとは知らなかった。


 セレスが嫌な顔をしている原因は、彼女はフレイアと会う前に教会所属の棺桶回収の仕事もしていたから。旅人や商人から連絡が入ると必ず回収に行かなければならず、命がけなのに給金が安くて嫌な仕事だったらしい。


 ・・・・


「ほら、エドそんな事を言っているうちに魔獣が現われましたわ」

「おう、戦闘だなみんなよろしくたのむぞ」


 現れたのは青いスライムが一匹。

 ポニョポニョで見た目はかわいい。

 LV1でも倒せる最弱魔獣だ。


「よし! みんな気合いを入れて行くぞ」


 まず先制一番で俺の攻撃。

 棍棒で殴ってみたが、ダメージが入っている様子はない。

 画面表示はされないが、「ミス、ダメージを与えられない」と出ていそうだ。


「すげぇ硬いぞ、このスライム!」


 見た目はポニョポニョしているのに、叩くとかたまり肉のようにズシッとした手応えだ。


「今回復活した魔王の魔獣達は十年前の物より凄く強くなっているぞ、気を付けるのだぞ!」

 フレイアが剣で攻撃するとようやく、スライムの破片が飛び散るがスライムの反撃を食らってしまう。

 スライムはポニョポニョとした見た目と違い、イノシシの体当たりのような力強さでフレイアに体当たりを食らわすとフレイアは叩き飛ばされてしまった。


 草原を転がり、一発で重傷だ。


「グッ!……」

「フレイア姉!いま回復魔法をかけるっす」

 フレイアはセレスの回復魔法で重傷から復活。


「火の精霊よ、目の前のスライムを焼き払え、ファイア!」

 インテグラの魔法が飛んで行くとスライムに衝突し、スライムが炎に包まれる。


 そしてスライムが消滅すると、一ゴールドが草原に落ちていたのだった。


「スライムでこの強さなのか?メチャクチャ強いじゃないか」

「そうなの、だから王様は大量に勇者を呼び寄せて戦わせる事にしたのですわ」


 魔王討伐のゲーム中も2周クリアすると最上級難易度モード、ハードコアモードが選択できるようになる。

 オレは敵の強さが鬼畜になりアイテムドロップ率も低下するハードコアモードは遊んだ事がなかったが、もしかしたらこの世界がハードコアモードになっている可能性もある。


「いったん休息を取った方がいいか?フレイアのダメージはどうだ?」

「私は大丈夫だ、セレスに治癒魔法をかけてもらったからまだ戦えるぞ」

「セレスとインテグラのMPは大丈夫か?」

「回復魔法ならあと3回使えるっす」

「私もファイアの魔法なら2回使えますわ」


 これはまずい、最弱スライム一匹であの強さだ。

 フレイアはLV5、セレスとインテグラはLV3、このチームでは俺はLV1で戦力外。

 Lv1の俺ではダメージを与えられなかったから、攻撃担当はフレイアとインテグラだけだ。


 最弱のスライムがこの強さでは普通にLV1の勇者が棺桶化するのも理解できる。


 しかもドロップしたのが一ゴールド、ゲームと同じ世界なら宿屋で宿泊するとHP/MPが全回復するシステムだったが、宿屋が一泊一人三ゴールドで四人で十二ゴールドないと宿泊できない。


 スライム十二匹を倒さないとならないが、この調子だと同時に三匹くらいと遭遇したら全滅……死ぬかもしれないのだ。



「こんな時の開発コンソールか」


 三人は何を言っているの? って顔をしているが、なりふり構っている状況ではない。


 アイテムバックからコントローラーを取り出し、試しに開発コンソール用のコマンドを入力してみると、ステータスウィンドウ上に開発コンソール画面が表示された。


「おお、コンソール画面出るじゃん」

「エド、こんそーる画面?って何だ」

「勇者特有のスキルって感じだな、ちょっと待ってろ」


 この開発コンソール(デバッグウィンドウ)自体はこのゲームが発売された当時から裏技としてゲーム雑誌に紹介されていたが、当時はデバッグコマンドが一部しか見つからずゲーム開発会社が消し忘れた機能の一部として紹介されていただけだった。


 しかし、時が流れネット時代になった事で情報の解析が進み開発コンソールの使い方が有志の手により公開されるようになると、さまざまな遊び方ができるゲームとして再び注目を浴びるようになった程である。


「俺が良く使うコードを追加しておくか」


 ・攻撃時に必ずクリティカルヒット

 ・敵に遭遇した時に必ず先制攻撃が可能(2ターン攻撃ができる)

 ・敵を倒した時に必ずアイテムを落とす設定

 

 この三つのコードはゲームプレイ時に良く使う物だったので覚えている。。

 有名なエミュレーター用のチートコマンドも同様のコード方式を採用した事で、多くの種類のチートコマンドが作られているのだ。


 金MAXやレベルMAXコマンドはゲームプレイ上シナリオが楽しめないので使わなかったから覚えていない。

 取得経験値数倍のコマンドもあるが、某所に行けばミスリルスライムやオリハルコンスライムを狩りまくれるので、レベル上げの楽しみとして取っておく。


 また壁すり抜け等の便利なコードもあったが、マップ外のエリアまで歩いて行くと戻って来られない等便利な反面、想定外な行動をすると危険なコードも存在しているので危険なコードも憶えていない。


 デバッグ用開発コンソールなので無茶なコードを入れるとゲームがバグるし、ゲームプレイは出来ても最悪の場合セーブデータがバグのまま保存されロード出来ないこともある。


 そんな事を考慮しつつ選択した三つのコードだ。

 開発コンソールに対応するコードを入力して有効化させていく。


「よし準備完了だ、また魔獣を見つけて倒そう」

「OK」


 草原で魔獣を探すと、スライム三匹が現われた。


「まずいぞエド、スライム三匹では逃げるしかない」

「大丈夫だ、勇者の俺を信じろ、勇者のスキルがあるから勝てる」


「フレイア!もう逃げられません、スライムに完全に見つかりました」

「アタシ達、ここで死ぬっすね、でもタダではやられないっす」


 スライム一匹で苦戦していた三人は覚悟を決めてスライムとの戦闘を開始した。


 スライムは様子を見ていたが、俺が棍棒で殴ると今度は攻撃が跳ね返される事はなく

『バシュッ』と軽快な音が鳴り響くとクリティカルヒットダメージが入り一撃でスライムを倒す事に成功。


 続いてフレイアの攻撃も


『バシュッ』と軽快な音が鳴り響き


 クリティカルヒットのダメージでスライムを倒す事に成功した。


「うそ、クリティカルヒットだ一撃だぞ」

 驚くフレイア。


「もう一匹です、ファイア!」

 スライムが炎に包まれ、ダメージを与える。


「私も行くっす!」

 セレスは木の棒でスライムを叩くと、


『バシュッ』と軽快な音が鳴り響き

 スライムにクリティカルヒットが入る


 スライム三匹を倒す事に成功したのだ。


「信じられないっす、聖職者の私がクリティカルヒットを出すなんて聖職者学校時代でもなかったっすよ」


 戦闘が終わると草原には三ゴールドと回復ポーション(Cランク)が3個落ちていた。


「順調だ、アイテムもドロップしたな」

「エド嘘だろ、スライムがアイテムドロップするなんてほとんどないのに、回復ポーションを三個も落とすなんて信じられないぞ」


「フレイア、アイテムドロップと言っても回復ポーションCランクですわ、運が良かった程度ですわ」


 無事に開発コンソールも機能するようだ。

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