第6話 お兄ちゃん何処に行っていたのだ
メイアは俺の隣りに来ると腕をガシっと掴み、仲間の三人から引き離した。
「エド兄ちゃん、十年もどこにいっていたのだ」
「俺は魔王を討伐したんだよな?」
「何をボケているのです、お兄ちゃんが初代・二代目の魔王を倒したからこの世界が平和になったのだ、でも急に居なくなっちゃって心配したのだ」
さっきまで元気だったメイアは突然泣き出してしまった。
それに釣られるように母さんも泣き出してしまう。
「寂しかったのだ、でも無事に帰ってきてくれて良かったのだ」
やっぱり十年ぶりの再会だった。
俺の記憶は全くない。
突然、王の謁見中に目覚めたからな、あのときの王様も十年ぶりだと言っていた。
「母さん、メイア俺は今までどこに居たのか記憶がないんだ、最後の魔王討伐の時に俺は王様のところに帰って来ていたのか?」
「そうなの、エドちゃんは王様の所に帰って来なかったわ」
「でも世界が明るくなって魔獣がいなくなったのだ」
「私達はエドちゃんが魔王を倒したのね、平和がまた訪れたのねって思ったの」
そう、俺はこの魔王討伐三の二週目をクリアしたときに魔王倒し、エンディングを最後まで見ずにリセットしている。
本来のエンディングでは王様からの盛大なパーティーの後に冒険で出会った街の人々に挨拶をして、最後に自分の家のドアを開け THE END となり、ゲームが終わる。
二週目だったからってのもあったし、勉強が重要な時期と重なり三週目をやるほどの時間はなかったのだ。
「でも記憶がなくなっても無事に帰って来られたのなら問題ないわぁ、帰ってきてくれてありがとうエドちゃん」
「もうお兄ちゃん勝手にどこかに行ったりしちゃ嫌なのだ」
母さんとメイアに再び抱きつかれてしまい、実感のない俺からすると少し困ったけど、二人に次は魔王を倒したら絶対に家に帰ってくるからと誓った。
「ところでエド兄ちゃん、後にいる女の人達は何なのだ」
「ああ、紹介していなかったな旅の仲間のフレイア・インテグラ・セレスティーンだ」
三人はテーブルに座っているがぺこりと頭を下げる。
「ふーん、エド兄ちゃんの旅の仲間なの、どんな関係なのだ?」
「関係と言ってもパーティを組んで一日目の仲間だからな、宿屋に泊まるよりも近くの自宅で休もうと思っただけだぞ」
「そうだったの、エド兄ちゃんの仲間なら歓迎するなのだ」
メイアは歓迎するとは言っているが目は歓迎していない。
ブラコン妹からすれば見知らぬ女達は兄を取られるかもしれない敵でしかない。
「母さんが言っていたけどメイアは勇者学校に通ってるんだってな」
「そうなのだ、エドお兄ちゃんが居なくなってから新しい勇者を育成するって学校制度が始まって私はエドお兄ちゃんの功績があったら簡単に入学できたのだ」
勇者学校は幼少期から素質のある子供を、農民貴族問わず通わせこの世界の成人となる十六歳で卒業となる。
もちろんメイアも勇者としての適性があったのだろう、俺の功績が有ったとしても簡単に入学できるほど簡単な学校ではないはずだ。
「メイアは来年卒業か?」
「そうなのだ、今は魔獣討伐の実地訓練中なのだ」
「今のレベルは教えてくれるか?」
「エド兄ちゃんだけならいいのだ」
そう言うとメイアは耳元でレベルを教えてくれた。
メイアはレベル5で、成人前の少女のレベルとしてはかなり高い。
「でもこの近くの赤スライムにも苦戦するのだ、エド兄ちゃんはそんな奴等をなぎ倒して魔王と戦ったのだよね?」
レベル5だった頃のフレイアが一発で突き飛ばされる位の強さの青スライムだ、レベル5のメイアがマトモに戦える訳がない。
「今回のスライムは俺だって苦戦しているし、この十年でレベルも1に戻ってしまったから俺もメイアより弱くなっているよ」
「ならお兄ちゃんを守る人が居ないとだめなのだ」
「そうか、じゃぁメイアに守ってもらおうかな」
「うんそうするなのだ!」
メイアは明日も勇者学校があるし、基本俺達は四人パーティだ。
メイアには悪いけどここは大人の事情として諦めてもらおうと思った。
****
「さぁみんな、お夕飯ができたわよぉ」
母さん特製のご飯が食卓に並ぶ。
「エドの母さんの料理おいしそうだな」
フレイアが呟くが、温かそうな湯気をたて大きめの野菜と大きめの肉が入ったシチューと柔らかめのパンのが用意されているのを見ると自然と腹が鳴る。
「今日はエドちゃんのお友達もたくさんだからお母さん頑張って作ったの、みんな遠慮しないで食べてねっ」
大きめのテーブルに座ると、俺の横にメイアと母さん、正面にフレイアとインテグラ、セレスが座っている。
ゲームだと爺さんと婆さんが居たけど、どうなったのだろう?
「爺と婆はどうしたんだ?」
「お爺ちゃんはいつものカジノかな、おばあちゃんはダンスホールで毎日朝帰りなのだ」
ゲームの設定そのままだ、爺さんはモンスター闘技場に居るモブの一人で話しかけると負ける方に掛けると言うキャラだ。
話の感じからして金を掛けている訳ではなく予想が外れているだけなので、ゲーム中はこの爺さんに話しかけて爺さんが予想している逆のモンスターに金をかけると七割位の確率で当たる仕組みだ。
婆さんの方は街の酒場で町娘にダンスを教えているスパルタ婆さんキャラだ、話しかけると踊り出すが酒を飲んでいる人にはなしかけるとブーイングが飛んでいる。
婆さんが踊っても面白くないと。
ちなみにこの爺さん婆さん、夜家に帰ると会えないが昼間帰って来ると寝室で寝ている設定になっている。
二人とも十年経っても健在だった。
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