第7話 兄にべったりの妹

 和やかに食事の時間が終わった。

 寝る時間になって問題が発生する。


「エド兄ちゃんの部屋でみんな寝るの?ゆるさないのだ」


 メイアが真っ先に言い出した。


 もともとパーティ全員で寝られるように俺の部屋にはベッドが四台設置されている。

 一周目は男だけのパーティ設定で問題なかったし、二周目は男二女二のパーティで特に問題はなかったというか、ゲームだから気にする事はなかった。


 でも今回は女三に男一、しかもこのリアルな世界での話、俺も抵抗あるしメイアが反対するのも理解できる。


「私達は気にしないっすよ、男の冒険者と野営するなんて日常的にある事っすから」

 彼女達は酒場で知り合った関係だ、今のレベルになるまでに他のパーティと一緒に活動していた事位は容易に想像できるし、その中に男性がいるのも普通の事だ。


「私がゆるさないのだ、エド兄ちゃんは私が守るのだ」


 メイアの中では俺が彼女達に手を出すのではなく彼女達が俺に手を出すと思っているのだろう、出会って一日でそんな事にはならないと思うがメイアが気にしているのであれば少し考えなければならない。


「俺は爺さんのベッドを使うよ」

「お爺ちゃんのベッドは駄目なのだ、なら私がお兄ちゃんの隣りで寝れば大丈夫なのだ」


 えっ?と耳を疑ってしまう。

 十年前の五歳の頃なら一緒に寝てあげるみたいな事はあっても問題ない感じがする、仲の良い兄妹みたいな感じで五歳相手なら微笑ましいだろう。


「おまえ、もう十五歳だろ兄貴と一緒に寝る妹がどこにいるんだ」

「エドお兄ちゃんはいつもエドお兄ちゃんなのだ、十年間とっても寂しかったのだ」


 そう、寂しいとか十年のワードを言われてしまうと俺も邪険に出来ないと思ってしまう。


「エド、私達は気にしないですわ、メイアさんとの再会もありますし今夜位は一緒に居てあげても誰も変な目では見ませんわ」


 まぁ変な目で見るよ、普通は。


 仲間三人の意見とメイアの強い希望で、今夜はメイアと一緒に寝る事になってしまった。


 *****


「えへへ、今日はエド兄ちゃんと一緒なのだ」

 少し広めのベッドの中にはメイアが隣りにいる。


 十五歳と言っても色んな所は大人になり始めているし、ゲーム内の俺とメイアは兄妹設定だが、俺自身は他人だからどことなく緊張してしまう。


「エド兄ちゃん、私大きくなったでしょ?」

「そうだな、五歳の時とは全然違うよな」

「ママみたいにおっぱいとか大きくなるのかな?」

「それは母さんに聞いてくれよ、成長の途中だから大きくなるかもしれないぞ」

「えへ、なら大丈夫なのだ」


 何が大丈夫なのか突っ込めない。


「お前もいい人を見つけてくれよ」

「いい人はエド兄ちゃんだよ、小さい頃にエド兄ちゃんのお嫁さんになるって決めていたのだ」


 日本だと兄妹で結婚は出来ないから考えた事もないし、このゲーム中も結婚のイベントはない。

 シナリオイベント中に恋人同士の縁を繋げてアイテムを貰うイベントがあったかな、その位しか思いつかない。


「エド、兄妹で仲良しなのは良いっすけど、もうちょっと小さい声で話してくれっす、ダダ聞こえっすよ」


「そうですわ、お願いしますわ」


 同じ部屋に寝ている二人からクレームが入った。

 フレイアはとっくに寝ているみたいだけど。


「ほらメイアも寝ないとだ」

「エド兄ちゃんぎゅーってしてちょうだい」


 凄く抵抗があるが、メイアをギュっと抱きしめてやると、メイアは安心した表情をしてすぐに眠ってしまったのだった。


「勇者学校で疲れているんだろうな、毎日実地訓練でこの年齢でLV5なら何回も死にそうになったかもしれない」


 妹の事もあるけど早く魔王討伐をしなければならないと思った。


 *****


 翌朝目が覚めると、ベッドの中にはメイアの姿はない。

 他のベッド見ても既にみんな起きているようだ。


 窓の外は日の出前の薄暗い感じで、街はまだ活動を始めていない。

 一階からは母さんの朝食準備の音がしている。


 俺も起きると着替えて一階へ降りていく。


「おはようエド」


 母さんに朝の挨拶をすると、テーブルでお茶を飲んでいる仲間達に朝の挨拶をする。


「おはよう、随分早いんだな」

「エドが遅いだけだ、私達は日の出と共に活動始めるからな」


 彼女たちの朝が早い理由にキャンプセットと言われるアイテムの存在があった。

 ゲーム中のルーティーンでも夜は行動せずにキャンプセットを設営する。

 序盤では手に入らないキャンプセットだが、中盤になると宿屋代わりに使える便利なアイテムだ。

 キャンプ中は敵に襲われる事もなく無事に朝が迎えられる便利アイテム。


 夜になると敵のエンカウント率が異常に上がるので、夜に眠り、早朝になるとすぐに行動を開始するのが常識だった。


 彼女達の体内時計にはそれが記録されているのだろう。


「野営している訳ではないからゆっくりでも良いだろ?」

「一般人の生活リズムに合わせていたら私達冒険者は生活できないよ」


 そんな物か。


「エド兄ちゃんこれを見るのだ!」


 勇者学校の実地訓練用装備を身に纏ったメイアの姿がそこにあった。

 昨日帰ってきた時は校内用の制服。

 実地訓練用の装備は冒険者の装備そのもので、学校指定の装備品で市販の物よりも若干良く出来ている。

 国王が一括購入してワンランク上の装備品を支給しているためだ。

 デザインも洗練されていてカッコイい。


「おお、カッコイイじゃん」

「エド兄ちゃんに見せたかったのだ」

「でもメイアちゃん、今日は実地訓練の日じゃないでしょう?」

「なにママ、今日からエド兄ちゃんと一緒に行動するのだ」


「えぇ?何を言っているのだよメイア!」


 メイアの発言に驚く。


「昨日エド兄ちゃんの事は私が守るって言ったら、エド兄ちゃんもいいよって言ったのだ」


「そうね勇者学校の先生もメイアちゃんは学校で伸ばすよりも実戦で伸ばした方が良いって言っていたわぁ」


「おいおい母さんまで何を言っているんだよ、メイアを危険な目に会わせる訳には行かないだろ!」


 当然頭の中では「ノー」の選択肢が浮かんでいる。

 レベル5のフレイアがあっさり重傷になったスライムとかいる世界、しかもゲームは4人パーティ、バランスが取れている現状で誰かを外す事はできないのだ。


「メイアの気持ちはありがたいけど、兄ちゃん達が行くところは学校とは違うんだ」

「訓練でスライムを倒せるし、攻撃魔法なら使えるのだ!」



「エド、取り込み中すまんが、冒険者パーティは基本五人だぞ」


 えっ?そんな仕様はなかったはずだ。

 このゲーム、最大パーティは四人で五人目を作る(加入)場合は一人を組合において別れるシステムだったはず。


 俺は急いでアイテムバッグからコントローラーを取り出し、ステータスウィンドウを開く。

 画面が五人用に変化していたのだ。


 もともとTV画面イッパイに表示されていたUIだが、今はVR空間のように表示されているので画面的表示制限がない状態だ。


 考えてみると、動画サイトで見た事があった


 この魔王討伐三、三周目のハードコアモードから難易度が上がる関係でパーティメンバーが五人になる仕様だった事を。

 噂では次期作の勇者討伐4のシステムを実験的に実装した物ではないかとまで言われた物だ。


 まさかメイアが5人目の仲間になるって事なのか?


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