夏祭りで食べまくる!

「夏祭りなんて、久しぶりだなぁ」


 僕は隣にいる海斗にそう言った。


「そうだな、あんまり去年とか、行ってないしな」


 海斗が言う。


「とりあえず、腹も減ったし、なんか食べないか?」


 そう海斗に促され、僕は辺りを見回す。


 たこ焼き、りんご飴、焼きそば、お好み焼き、フランクフルト、わた飴……


 何を食べようか迷ってしまう。


「美味しそうなものが色々あって、迷っちゃうなぁ。海斗は、何か食べたいものあるの?」


 僕は海斗に聞く。海斗は、そうだなと少し考え


「じゃあ俺は、りんご飴でも食おうかな。ちょうど甘いもん食いたい気分だったし」


 海斗が言う。


「そっか、りんご飴美味しいよね。……僕は、どうしようかな。僕もりんご飴に

しようかな」


 僕はそう言って、りんご飴の屋台に歩を進めた。海斗もついてくる。


「すみません、りんご飴二つください」


 そう言ったときだった。ふいに、肩をぽんと叩かれる。


「よぉっ! 久しぶりだな!」


 その声を聞いた瞬間、誰が僕の肩を叩いたのかすぐに分かった。


陽太ひなた! 久しぶり!」


 肩を叩いた主は、陽太だった。こいつは、サーフィンでもやっているのかという

くらいに、いつも麦わら色の肌をしていて、ニカッと笑った顔が印象的な奴だ。

おまけに、結構体格も良いし、人当たりもいいので女子からモテそうな奴だ。


「陽太……お前、どうしてこんなところに?」


 海斗が驚いた顔で陽太を見る。


「あぁ、近所で夏祭りがやってるって親が言っててさー、それで夏祭りに

来たんだ。まさかお前らに会えるなんて、来て良かったよ!」


 陽太は、心底嬉しそうな顔で言う。


「僕も、会えて嬉しいけど……でも、今までずっと音信不通だったから、

心配したよ。どこか行ってたの?」


 僕は陽太に聞く。


「あぁ、ごめん。実はさ、家族で北海道に旅行に行ってたんだ。

しかも俺、旅行の間あんまりスマホ使ってなかったし、メッセージに気づいてなくてさ……。ほんとごめん!」


 陽太は僕に謝る。しかも大声で。


「ちょ、ちょっと! 気持ちは分かったから、もう少し声のボリューム落として!」


 僕は陽太に言う。道ゆく人たちがチラチラと僕らの方を見ている。

うわぁ恥ずかしい……。


「まぁ、とにかく無事で良かったよ! なっ、夏弥!」


 海斗がそう言い、なんとかこの場は収まった。


    *


「そういえば、陽太ってもう何か買ったりしたの?」


 僕はりんご飴を舐めながら陽太に聞く。


「あぁ、食べ物系の屋台は全部制覇したぜ!」


 陽太は涼しげな顔で言う。


「ええっ⁉︎ 陽太、食べ物系の屋台全部周ったってこと⁉︎」

「マジかよ⁉︎ めっちゃ食うじゃん!」


 しかし、僕たちはツッコまずにはいられなかった。


「ははは、もっと褒めてくれても良いんだぜ!」


 陽太はそう言って豪快に笑う。


「いや、褒めたつもりはまったく無いんだけど……」


 僕は陽太に言う。


「おい二人とも、見てみろよ!」


 海斗が僕と陽太に声をかける。


「金魚掬いの屋台があるぜ! せっかくだから、金魚掬いしないか?」


 海斗がそう言い、金魚掬いの屋台を指差す。

確かに、金魚掬いは久しくやっていなかったから、やってみてもいいかもしれないな。


「面白そうだね。やろうかな」


 僕は海斗の提案に乗る。


「俺も、金魚掬いなんて小学生以来かもしれないな。上手く金魚を掬えるか分からねーけど……面白そうだし、やってみるか!」


 陽太もそう言ってくれたので、三人で金魚掬いをやることになった。


「はい、一回三百円ね」


 金魚掬いの屋台のおじさんが、金魚を掬うポイと、掬った金魚を入れる器を

くれたので、早速挑戦してみる。


 金魚掬いの屋台は、小さい子供たちが多く、高校生の僕たちがやるのは少し

恥ずかしいかなと思ったが、そんなことをいちいち気にしてもしょうがない。


 まず、比較的隅っこの方にいる金魚に狙いを定める。その中で、ポイにかかりやすそうな金魚を探す。隅の方にいる金魚の方が逃げ場がなさそうだし。それに、比較的小さい金魚の方が、ポイが破れにくそうだな……。


「よっし、早速二匹取れたぞ!」


 そう声がした。みると、陽太の器には三匹金魚が入っていた。


 僕がぐずぐず考えている間に、陽太はもう二匹金魚を掬ったようだ。

陽太に負けてはいられない。


 そう対抗心を燃やしながら、僕は隅のほうにいる、小さい金魚に狙いを定め、ポイを斜めにゆっくり入れた。

そして金魚を一匹掬い上げた。斜めにしたまま器に入れる。


「おぉ、夏弥。慎重だな」


 僕の一連の流れを見た海斗が、僕を褒めてくれる。

ポイを斜めにしたまま器に入れた方が、ポイが破れず金魚が逃げないから、

そうしてるだけなんだけど……。


 そう思いながらふと海斗を見ると、なんと海斗も金魚を二匹も掬っていた。


 まさか、僕が一番ビリだなんて……金魚掬いは僕が一番得意だと思っていたのに

金魚をどうすれば上手く掬えるか、ということを考えすぎてあまり掬えてなかったな。

 ちょっと気合を入れ直して、もう一回金魚を掬ってみよう。

僕は隅の方にいる金魚に狙いを定め、そっと金魚を掬った。

しかし、ポイの上で金魚が暴れ、ポイが破れてしまった。

しまった……。


「あっ、夏弥のポイ、破れてんじゃん!」


 僕のポイを見た海斗がそう声をあげた。


「ははっ、お兄ちゃんポイが敗れちゃったんじゃしょうがないねぇ」


 僕のポイを見た屋台のおじさんがそう言って笑った。


 結局僕がとれたのは、一匹の金魚だけだった。

海斗は、二匹、陽太は三匹だ。


「僕が一番ビリなのか……。悔しいなぁ」


 僕はそう呟いた。


「ははっ、でも良かったじゃん。一匹掬えたんだし」

「そうそう。一匹も掬えないよりかはマシだぜ!」


 海斗と陽太に慰められたが、僕より掬えてる奴らに慰められるなんて、

こんな屈辱はない。


「二人ともそんなこと言って、僕より掬ってるくせに……」


 ボソっと本音が漏れ出てしまった。



    *



「なぁ、射的やろうぜ!」


 陽太が射的の屋台を見つけ、僕と海斗に提案する。


「面白そうだな! 俺もやりたくなってきた!」


 海斗も陽太の提案に乗る。

しかし僕は、歩き回って疲れ、さっきの金魚掬いがよほど屈辱だったのもあり


「僕は少し休もうかな。ちょっと疲れちゃったし……」


 と二人に言った。


「そっか。じゃあ、夏弥は休んでていいよ。俺たちだけで周ってこよう、陽太」

「あぁ。夏弥、ゆっくり休めよ!」


 二人は僕が休憩することを申告しても、怒りも呆れもせず、優しい言葉をかけてくれるだけだった。

我ながら、良い友達を持ったと思う。


 休憩しようと、ベンチに腰を下ろす。

ぼーっとして、周りの景色を眺める。

わた飴を食べながら歩いている子供、泣いている子供、僕と同じくらいの

年齢のカップル、大学生の集団……。


 やっぱり夏祭りに来ているのは若い人が多いな。そう思っていると、大学生の

集団の一人が、こちらにやってきた。


 お面をつけているので顔はよく分からないが、その人は僕が腰を下ろしている隣の

ベンチに腰を下ろした。


 なぜか知らないけどうなだれている。何かあったのだろうか。彼女にフラれたとか? そうだったら、お気の毒だな。せっかくの夏祭りなのに……。


 ふと、その人がこちらを見た。僕は自分の考えていることが、相手に聞かれているんじゃないかと思ったが、どうやらそうでもないようだった。


 相手はこちらに近づいてくる。やばい、不審者か? 海斗と陽太を呼ばないと……。

僕はスマホを掴もうとしたが、ふと聞き慣れた声がした。


「夏弥か?」


 そのお面の人が言っているのか、それとも別の誰かなのか、その見当はすぐについた。


 お面の中から声がし、その人はお面を外した。



「あ、アオくん⁉︎」


 お面を外した顔は、間違いなくアオくんそのものだった。


「いやぁ、こんなところで会うなんて、偶然だなぁ!」


 アオくんはさっきのうなだれている姿勢が嘘かのように、急に元気になり

喋り出した。


「アオくんも、夏祭りに来てたんだね……。急にお面つけた人が話しかけてくるから、てっきり怪しい人なのかと思ったよ」


 僕は、今の気持ちを正直にアオくんに伝えた。


「なんか、こないだの花火の時といい、お前の反応が冷たい気がする……」


 アオくんはがっかりしたような表情を僕に向ける。


 そりゃそうだよ、友達同士の花火に乱入する大学生が知人なんて、恥ずかしすぎるよ、と言いたかったけれど、ぐっと堪えた。


 さすがにそれを言ったら、ひどく傷つくだろうな……。


「そ、そんなことよりさ、アオくんはなんでベンチに座ってるの? せっかくだし、

屋台を周ったりすればいいのに」


 僕はアオくんのがっかりした顔から顔を背けるように、別の話題を切り出した。


「ん? あぁ、今は大学の友達と祭りを周ってたんだけどさ。ちょっと疲れたから、

俺ベンチで休んでくるわ、って言って休んでたんだ」


 アオくんはそう言った。そういえば、友達らしき人たちと別れてこのベンチに来てたよね……。


「そんなことより! 俺はお前と会えて嬉しいよ! さっ、屋台を一緒に周ろう!」


 アオくんが途端に満面の笑みになり、言った。


「えぇっ⁉︎ なんでそうなるの⁉︎」


 動揺を隠しきれずに僕は叫んだ。


「そもそも友達いるんでしょ⁉︎ なら友達と周ればいいのに……」


 僕はアオくんに反論したが、アオくんはまったく怯まなかった。


「別にいいだろ。そうだ! 俺の友達も夏弥と周ればいいのかもしれない」

「いやおかしいじゃん! どう考えても、僕部外者だよね⁉︎」


 真面目な顔でそう言ったアオくんに、僕はツッコまざるをえなかった。


     *


「夏弥、あいつ何やってんだろ」


 陽太が夏弥を見つけて言う。


「って、あそこにいるの夏弥の知り合いの大学生の人じゃん⁉︎ あの人も来てたのかよ……」


 俺は夏弥の横にいるお面をつけている人を見て、言った。


「へぇ、あの人夏弥の知り合いなのか! 背も高くて、なんかカッコいいな!」


 陽太が夏弥の知り合い––––葵さんを見て言う。


「いやいや、どう見てもなんか夏弥困ってね?」


 夏弥が俺たちに気づき、『助けて』と目線で訴えかけてきた。


 全く、一つ面倒事が増えたな……。俺はため息をつきながら陽太に言う。


「おーい陽太。夏弥を助けに行くぞー」

「なんでだ? なんか楽しそうだけどなぁ」


 陽太はそう言ったが、それはおそらく葵さんの厄介さを知らないからだろう。


「……ほら、行くぞ」


 俺は陽太を引っ張って、夏弥の元に行った。












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