夏の終わりに
僕はふと目が覚めた。スマホを見ると、午後の一時半だった。
こんな時間まで寝てしまっていたのか、と僕は絶望に駆られた。
うぅ、いつもならこんな時間まで寝ているなんてことは絶対にないのに……。
そう思いながらぼーっとスマホを眺めていると、海斗からメッセージが来た。
『おーい、もう宿題全部終わったか?』
そういえば今日は夏休みの最終日だった、とふと思い出した。
でも、よりにもよって海斗にそんなことを言われるとは……。
おそらく、この文章から察するに、僕が全部夏休みの宿題を終わらせていることを
期待しているのだろう。もちろん、僕は全部終わらせているけど、夏休みの間中
僕を頼ってきた海斗に、もう宿題は見せてやらないからな。
僕はそう決意する。ていうか、ついこないだもこんな事があった気がするな……。
そう思いながら、メッセージアプリを開き、海斗に返信する。
『終わってるけど、もう見せてやらないからな。自力でやれ』
そうメッセージを打ち、青い送信ボタンを押して送信する。
すぐに既読がつき
『後生だから! お願い!』
と返事が来た。
後生だろうがなんだろうが、宿題を自分でやることも大切だと判断した僕は
お説教メッセージの代わりに、怒りスタンプを海斗に送って、ため息をついた。
遂に明日から二学期が始まるのかー……。
この夏休みの間に、いろんなことがあったよなぁ。
僕は夏休みの間にあったことを思い出す。
海斗とアイスを食べたり、皆と線香花火をしたり、肝試しをしたり、夏祭りに
行ったり、他にも色々––––。
今年の夏は、楽しかったなぁ。来年の夏も、楽しいことがいっぱいあるといいなぁ。
僕はふぅとため息をつき、明日から始まる学校に向けて、準備を始めた。
*
「はぁ、今日から新学期が始まるのかぁ、怠いなぁ」
そう言った海斗を横目で見ながら、僕は歩を進める。
「そんなこと言っても、来るものは来ちゃうんだからしょうがないよ」
僕はそう言って海斗を諭す。
「そんなこと言っても、学校めんどいしなぁ。毎日夏休みだったらいいのに」
海斗がそうぼやく。
「分かるぜ、その気持ち!」
ふと明るい声がした。振り向くと、陽太がいた。
「俺もさぁ、できることなら毎日夏休みがいいなって思ってるんだ。一日中遊び放題だし!」
陽太も、海斗と似たような思考みたいだ。
「遊び放題なのも面白そうだけど、やっぱり勉強もちゃんとした方がいいと思うなぁ」
僕はぽつりとそう呟いた。
「また、お前は〜! そうやって真面目すぎても疲れるだろ? たまには肩の力抜けって!」
海斗がそう言って、僕の背中を叩いた。
スキンシップが豪快だなぁ、海斗は。そういうところも元気でいいけど。
「元気な声が聞こえると思ったら、夏弥達だったんだね」
ふと落ち着いた声がし、振り向くと、朝陽と夕陽が立っていた。
夕陽は、寝癖もないし、きっちりしている。
一方、朝陽は眠そうに欠伸をして、寝癖も目立っている。
「ふぁ〜、ねむ……やっぱり、昨日夏休み最終日だからって、ゲームのエクストラ
ステージクリアまでやるんじゃなかった……」
どこか悔しそうに顔を歪める朝陽だったが、やっぱり眠そうな目つきだ。
「まったく、夏休み最終日だからって、夜更かしして……。夏休みの最終日だからこそ、きっちりと学校の支度をして、早く寝ることが重要なのに」
そんな朝陽を見て、呆れたように言う夕陽。
この兄弟も、なんだかんだいつも通りだな。
「う……。あっ、でも俺より、もっと寝不足そうな人がきたよ。ほら!」
なんとか夕陽の小言から逃れようとして冗談を言ったつもりだったのか、それとも
偶然なのかは分からないけど、朝陽が指を差した先には汐がいた。
「……おはよう」
顔に生気がなく、声に力もない。おまけにクマもひどい。どうせ昨日も遅くまでゲームをしてたんだろう。
「おはよう、汐。……ははっ、相変わらず、すごく酷いクマだな!」
海斗が汐の顔を一目見て、ぶっと吹き出した。
「昨日遅くまでゲームしててさぁ。やっぱり、今日学校なんだから早く寝とけばよかったよ……」
後悔しているように汐が言う。
「あはは、やっぱり汐は変わらないね」
そう言って夕陽が笑い、それにつられて皆も笑う。
……こんな何気ない日常でも、暑いって嘆いているような日常でも
やっぱり友達と笑っているのが一番幸せだよなと再認識させられる。
「っていうか、こうやって駄弁ってる間にホームルーム始まるって!」
そう言った海斗の言葉に皆ハッとし、誰ともなく走り出して、学校まで向かう。
どこかから、ひぐらしの鳴き声がした。
暑すぎる 翡翠琥珀 @AmberKohaku
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