肝試し

「肝試し?」


 僕は海斗に聞いた。


「あぁ。朝陽と夕陽がやりたいんだってさ」


 海斗はワクワクしたような口調で言った。


「肝試しかぁ、そういえば、あんまりやったことないなぁ。面白そうだし、

やってもいいかもね」


 僕は海斗に言う。

今は、海斗と電話中だ。


「夏弥って、お化けとか怖がりそうなのにな。肝試しとかは平気なのか?」


 海斗は意地悪そうに僕に聞いてきた。電話越しでも、海斗の意地悪い笑みが

容易に想像できる。


「お化けは平気だよ。そんな存在、いるわけないもんね。僕も肝試し参加するよ」


 僕は海斗に言う。


「それはまた大きく出たな。そう言う奴って、実際の肝試しの会場についたりすると、一気にビビり出すんだよな」


 海斗はまたもそうやって僕のことを揶揄からかう。……海斗め、肝試しの日はどうにかしてあっと驚かせてやりたい。


「でも、海斗だってホラー映画観るときビビってたくせに」


 僕は負けじと反撃する。


「そ、それとこれとは違うだろ!」


 海斗が慌てた声が聞こえた。何がどう違うんだろ……肝試しもホラー映画も、ゾクゾクする感じがするし、似たようなものだと思うけどなぁ……。


「と、とにかく! 土曜日の夕方五時に、お寺に繋がる雑木林の入り口に集合だってさ! 遅れんなよ!」


 海斗は、集合場所と集合時間を伝え、電話を切ってしまった。

ちょっと声音が焦ってたな。おそらく僕に、ホラー映画観るときビビってたくせに、と言われたのが図星だったのかな。


 まぁそれはともかく、肝試しは楽しみだから、土曜日を待つとしよう。



     *


 待ちに待った肝試しの日。僕は待ち合わせ場所にドキドキしながら行った。


「あっ、夏弥! おひさー!」

「夏弥も来たね。あとは、海斗かな」


 待ち合わせ場所には、夕陽と朝陽が待っていた。


「朝陽、夕陽、久しぶり。あれ、汐は?」


 僕は夕陽と朝陽に聞いた。


「……あー、汐はねぇ、今日風邪ひいちゃって、残念だけど来られなくなっちゃったんだ」

「うん。さっき連絡が来てね……残念だけど、仕方ないよね」


 夕陽と朝陽が口々に説明してくれた。

なるほど、風邪なら仕方ないなぁ。一緒に周れたら、楽しそうだったのに。


「おーい、皆ー!」


 元気の良い声がした。この声は、海斗かな。


「待たせたな!」

「海斗! 来てくれたんだね」


 夕陽が嬉しそうに海斗に言う。


 いや、普通は遅れてごめん、でしょ。何が待たせたな、なんだよ一体。


「じゃあ、全員揃ったところで、この肝試しのルールを説明するね。

まず、この肝試しは、二人一組で行うよ。

ミッションも用意したから、それを達成してこっちに戻ってきてね」


 夕陽が肝試しのルールを説明する。

ミッションもあるのか、結構本格的だなぁ。まぁ、ただ歩くだけじゃつまらないし、

こういう肝試しって、目的地で何かしないと戻れないっていうのが結構定番だもんなぁ。


「ミッション?」


 海斗が聞く。


「うん。こういう肝試しにミッションは付き物でしょ! ミッションがあった方が

やる気も出るからね!」


 朝陽が明るく海斗に言う。


「それで、目的地は、この雑木林をずっと真っ直ぐ歩いて行くと、お寺があるんだ。

そのお寺の右の方にある大木に貼ってあるカードに、自分たちの名前を

書いたら、こっちに戻ってきてね」


 夕陽が説明する。


 なるほど、雑木林を抜けて、お寺まで行かなきゃいけないのか。


「うん。ルールは分かったよ」


 僕は夕陽に言った。


「じゃあ、順番にくじを引いていこう」


 夕陽はそう言って、用意していた割り箸を僕達に見せる。


「この割り箸を一本引いて、割り箸の先が赤だったら、先発。

赤じゃなくて普通の色だったら後発だよ。ちなみに先が赤い割り箸は

二本あるから、それを引いた二人が先発ってことになるかな」


 夕陽が説明した。


「うん、分かったよ」


 僕は夕陽にそう言った。


「じゃあ、引いていっていいよ」


 夕陽がそう言い、割り箸を引きやすいように僕達に近づけてくれた。


「俺、できれば先発が良いなー早く終わりたいし」


 海斗が割り箸を引きながら言った。


「海斗、お前……やっぱり怖いんじゃないか?」


 僕が訝しみながらそう言うと、海斗は明らかに狼狽しながら


「べ、別にそんなことないって!」


 と言った。……動揺が表情と声に出過ぎだってば、まったく……。


「じゃあ次は俺ね! ……えーと、これにしようっと。

あ、俺は先発だ!」


 朝陽が言った。


「朝陽は先発か。俺は後発だったよ」


 海斗が言った。


「じゃあ次、夏弥」


 夕陽に促され、割り箸を引いた。できれば僕も先発が良いな……なんてね。


 直感でこれだ! と思った割り箸を引くと


「あ……僕、後発だ」


 なんの変哲もない割り箸を引いてしまった。これで先発がいいなという希望は

儚く消え去ってしまった。


「じゃあ俺と一緒か。なんやかんや、夏弥とはいつも一緒だな」


 海斗が苦笑しながらそう言った。確かに、よく海斗とは一緒になるな。


「じゃあ必然的に、僕は朝陽と一緒になるね。……やれやれ、また朝陽と一緒に

なっちゃったな〜」


 夕陽は、また弟と一緒になっちゃったなと言いながらも、どこか嬉しそうだ。


「じゃあ、僕らから行ってくるね〜」

「俺たちが帰ってくるまで、ちゃんとここにいてね〜」


 そう言って、朝陽と夕陽は行ってしまった。


 ……どうしよう、二人きりになったら突然怖くなってきたぞ。


「なんか、二人きりになったら静けさが増した気がするな……」


 海斗も、いつもの元気さはどこへやら、かなり深刻な表情になっている。


 朝陽、夕陽、早く帰ってきてくれ……。

















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