常識ないかもね

 ––––というわけで、今に至るらしい。


「おい、子供だけで火を点けるなんて、危ないぞ! 花火で遊んだり、危ないことを

するときは、お兄さんを呼びなさい!」


 そうアオくんが言う。いや、第一僕以外全員初対面でしょ、アオくんとは。

それに、僕達一応高校生で、十八歳でもう成人しますし。


「そんなに心配しなくても……だから、汐が親に許可はとったって言ってたでしょ」


 僕はアオくんに呆れてしまった。

こんなに聞き分け悪い人だったっけ……? まぁ、僕が小さい頃から、僕のことに

なると暴走しがちなタイプではあったかもなぁ……。


 例えば、僕が怪我をしてアオくんに絆創膏を貼ってもらおうとした時も、ただの

擦り傷なのに、包帯で怪我した箇所をぐるぐる巻きにしようとしたり、学校からの

帰りに偶然会った時には、何故か一緒に僕の家まで着いていこうとしたり……。


 なんだろう、過保護というか、過干渉というか……。とにかく、僕のことを

心配しすぎなんだ。


「確かに、僕達は大人がいない状態で、花火で遊んだけど……。でも、安全には

すごく注意してるよ。ほら、そばに水の入ってるバケツも置いてあるし、

何かあったときにすぐに火は消せるようにしてるから! だから、アオく……

葵は、心配しないで!」


 僕はアオくんにそう説明した。あぶない、つい癖でアオくんって呼びそうに

なったけど、ここでそう呼んだら恥ずかしすぎるから、なんとかぐっとこらえたけど……。


「あ、葵だと……⁉︎ い、いつもはアオくんって呼んでくれるのに……」

「とっ、とにかく! 葵はもう僕たちの心配をしなくていいって!」


 僕はアオくんの言葉を遮るように言った。上手く誤魔化せたかな……?

いつもはアオくんって呼んでるけど、ここでそう呼ぶのは流石に

恥ずかしいんだよ……。


「うっ……いつから夏弥はそんな冷徹な人間になってしまったんだ!

いつも夏弥は、俺のことを慕ってくれていたのに……!」


 アオくんが、失望したように跪いた。


 そんな、大げさな……。そんなにショックだったのかな……?


 しばし、静寂が続いたが、やがてアオくんは立ち上がって、一言呟く。


「それは、ともかくだな……」


 えぇ、さっきの意味分かんないショックを受けてたのはなんだったの?


「……確かに、対策はちゃんとしてるみたいだな。うーん、でも……」


 アオくんは一瞬納得したような素振りを見せたが、まだ腑に落ちないところがあるようだ。


「おい夏弥……思ったよりめんどくさいな、お前の知り合いの人……」


 海斗がそう僕に耳打ちした。……正直、僕もそう思ってしまう。

こうやって暴走しなければ、面倒見の良い、優しい近所のお兄ちゃんなんだけどなぁ……。


「ちょっと、いいですか」


 そう声を上げたのは、夕陽だ。何か、アオくんに言ってくれるのだろうか。


「えぇと……葵さん、でしたっけ。あなた、いくら夏弥さんが心配だからと

いって、他人の家に押しかけるのは良くないですよ。そもそも、ここは汐さんの

家ですし、急に押しかけられても汐さんも困るでしょう」


 おぉ、夕陽がアオくんにガツンと言ってくれた!


「それに、他人の家に押しかけてまで夏弥を心配するなんて……。俺の兄さんみたい」


 朝陽が呆れながら言った。


「まぁ確かに、それもそうだけど、今言う話じゃないでしょ……!」


 夕陽が慌てて朝陽に言った。


「と、とにかく、高校生だけで花火をするのが危ない、という話も分かります。

けれど、それなら一言『心配だから俺もついていっていい?』って一言

言えばいい話じゃないですか」


 夕陽が冷静にアオくんに言う。


「確かにそれは……そうだったかもしれないな……」


 アオくんの声音が少し落ち着いた。


「正直葵さんの気持ちはよく分かります。僕も、朝陽がつい危ないことを

しないかと心配になりますからね。でも、もう夏弥さんも高校生ですし、

そんなに干渉しすぎない方がいいですよ」


 夕陽がキッパリとアオくんに言った。

さすが夕陽、大人だなぁ……。もしかしたら、アオくんよりも大人なんじゃないか?



「さすが夕陽だな……朝陽の兄ってだけあるな」


 海斗がそう呟く。


「確かに、夏弥はもう高校生なのに、俺がちょっと過保護だったかもしれないな。

夏弥はもう高校生だし、しっかりしてるのに、俺はつい夏弥のことが心配になって

しまうんだ。俺は一人っ子だったから、つい近所に住んでる夏弥のことが弟みたいに

思えて、つい可愛がってしまう……」

「気持ちはすごい分かりますよ。でもやっぱり、過干渉せずに、見守ることも

大切です。これからは、その方法も試してみてはどうですか?」


 ……なんか、カウンセリングみたいになってないか?

どうみても悩み相談してる人(アオくん)と、アドバイスをしてる人(朝陽)の

図にしか見えない……。


「今度から、そうしてみるよ……。ありがとう、君のおかげで目が覚めたよ」

「それなら、良かったです」


 やれやれ、一件落着、というところかな。


「えっと……君の名前は……? 俺は、閑野かんの葵っていいます」

「あ、僕、夕陽っていいます。夏野なつの夕陽です」


 いや、普通に自己紹介してるんだけど⁉︎


「そうか……夕陽くん……ありがとう! 君のおかげで目が覚めた!」

「あ、あはは……それなら、良かったです……」


 アオくんは、夕陽の手をとってそう言った。

 夕陽は少し引いている。


「アオくん、一応僕からも言っておくけど、もう過保護なのは

やめてね。怪我しても自分で手当てできるし、家にも一人で

帰れるよ。もう小学生じゃないんだし、もう過保護なのはおしまいに

しようよ」


 僕はアオくんに言った。


「そうだな、ごめんな。ちょっと俺、ついつい過保護になる面が

あるみたいで……」


 アオくんがそう僕に謝ってくれた。


「うん。もういいよ。そうだ、アオく……葵も一緒に花火やろうよ」


 僕はそう提案した。また癖でアオくんと呼びそうになったけど、この場では

葵って呼ぼう。

 僕はそう決意した。


「だっ、だからなんでいつものようにアオくんって呼ばな……いてっ」

「あー一緒に花火やってくれるの? 嬉しいなー!」


 だから、アオくんって呼ばないで欲しいのに……僕は間一髪で

アオくんの足をつねり、大声で誤魔化した。


「え、俺一緒に花火やるなんて一言も言ってないし、あと急につねらないで

痛いから!」


 アオくんがそう僕に耳打ちした。


「ごめん、この場では、アオくんって呼ばないからね。恥ずかしいから」


 僕はアオくんにそう言った。


「えぇ⁉︎」


 またアオくんがショックを受けた音がした。


「とりあえず、この葵って人も一緒に花火をするのか?」


 海斗が言った。


「面白そうだし、葵さんも一緒にやりましょーよ!」

「そうですね。さっきはつい言いすぎてしまいましたけど、悪い人ではなさそうですね。良ければ一緒に花火でもどうです?」


 朝陽と夕陽が口々にアオくんを誘う。


「急にこの人が来て驚いたけど……。夏弥の知り合いだって明確に分かったことだし

葵さん? も一緒に花火しますか?」


 汐もアオくんに聞く。


「……じゃあ、厚意に甘えて、そうさせてもらうとするかな」


 アオくんはそう言った。どこか嬉しそうだ。


「一緒に、花火やろうよ」


 僕はアオくんにそう言った。


「あぁ!」


 アオくんは満面の笑みでそう言った。














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