なんで⁉︎

「じゃ、火を点けるよ」


 海斗がそう言ったそのとき––––


「ちょっと待て!」


 と声がした。聞き慣れた声だ。


 あわてて振り向くと、そこには––––



「え⁉︎ なんでここに⁉︎」


 僕は思わず口に出してしまった。


 その声の主は、アオくんだった。何やら険しい顔をしている。

 ていうか、なんで、アオくんがここにいるんだろう⁉︎ アオくんとはさっき別れた

はず……。


「あれ、やっぱりこの人、夏弥の知り合いなの……?」


 いつのまにかアオくんの傍には、汐もいる。汐は、なにやらぐったりと

疲れた顔をしている。


「うん。僕の家の近所に住んでる、大学生の人」


 僕は内心この場にアオくんがいることの動揺を抑えきれていなかったが、

冷静さを保ちながら汐に言った。


 ていうか、本当になんでここにいるんだろう。


「えぇと……あなた、夏弥の知り合いの方なんですか? なぜここに

いるんですか?」


「えーなに? ストーカーかなんか? こわ……」


 僕が戸惑っていると、夕陽と海斗が不審そうな目をアオくんに向ける。


「え……? あぁ、そういうわけじゃなくてな。ちょうど母さんに夕飯の

買い出しを頼まれてさ。その帰りに、ここの家の前通ったら、夏弥っぽい

声がして、花火をやってる音も聞こえたんだ。それで、そういえば花火をやるって

いう事を夏弥が、俺に話してたななんて思って……」


 アオくんは夕陽と海斗に説明を始めた。

 でも、なんで突然汐の家に突撃してきたんだろう……。


「じゃあなんで突然来たの……? 汐にも迷惑だよ」


 僕がはっきりアオくんに言うと、アオくんは僕に向き直って言った。


「俺はてっきり、夏弥か、夏弥の友達の親御さんが監督してくれるのかと思って、

子供だけで花火をやるんじゃないと思っていたんだ。それが、子供だけで花火を

やるとは……」


 アオくんは心底がっかりしたような口調で言った。いや、がっかりしたいのは

こっちの方なんだけどな……。


「俺が物置に行こうとしたとき、ちょうどインターホンが鳴る音が聞こえたんだ」


 汐が、今のこの状況に至るまでの経緯を説明してくれた。



       *



 俺が物置に行く時に、ちょうどインターホンが鳴る音が聞こえた。

物置って、丁度玄関の方にあるから、物置で花火を取りに行くついでに来客の対応もしようと思い、玄関を開けた。

 そしたら、夏弥の知り合いの人(仮)が玄関の前にいたんだ。

 正直知らない人だったから、そのまま無視しようとしたら……


「えぇと、俺、夏弥っていう子の知り合いなんだけど、ここに夏弥っています、か?」


 夏弥の知り合いの人は、少し気まずそうな表情をして、俺に尋ねた。


「い、いますけど……」


 俺が少し萎縮してそう言えば、 夏弥の知り合いの人は途端に笑顔になり


「そうか、いるんですか! それは良かった!」


 と言った。


 俺は咄嗟に「この人は夏弥のお兄ちゃんで、夏弥を迎えに来たんだ」と

解釈して、夏弥を呼びに行こうと、庭に歩き出そうとした。


「あっ、ちょっと待ってください。夏弥は、ほら、友達と楽しそうに遊んでそう

だし、あんまり邪魔はしたくないんです」


 しかし止められた。え、あんた夏弥のこと迎えに来たんじゃなかったの?


「えーと……じゃあなんであなたがここにいるんですか?」


 恐る恐る俺が聞くと、


「なんかね、さっき夏弥から聞いたんだけど、友達の家で花火をするみたいだったんだ」


 と言った。なるほど、夏弥とは前に会ってたのか。そこで、ここで花火をするって

いう事を聞いたのかな。


「あぁ、花火なら今庭でやってますけど……」


 俺はその人に教えたけど、その人は俺の言葉を聞いた瞬間に、笑顔が一変、険しい

表情になり


「……ごめんね。突然変な事を聞くけれど、その花火って、君たち子供だけでやってるの?」


 と聞いてきた。


「えぇ、そうですけど、特に問題ありませんよ。僕の両親からきちんと許可はとってるし……」


 俺は戸惑いながらそう説明したけど、その人は


「えっ、それはまずいな!」


 と言い、


「ごめん、上がらせてもらうよ」


 と、強引に家に上がろうとした。


「えっ、ちょっと、勝手に上がらないでください……!」


 俺が止めるのも空しく、その人は庭に向かって歩を進めていってしまった。


「火を扱うのに、家に保護者がいないなんて……。あぁそれはダメだ!」


 などとぶつぶつ言っている。


 ……この人、強引すぎるな……。


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