みんなで線香花火

「花火、持ってきたよ」


 僕は、線香花火が入っているビニール袋を片手に、皆が集まっている庭に足を

踏み入れる。この庭は、汐の家の庭だ。汐が気前よく庭を貸してくれたので、

僕達はそこで線香花火をすることにした。


「俺の両親には、庭で花火をする許可も取ったし、今は出かけちゃってるけど……

なにかあったらすぐ連絡してね、だって」


 汐が、花火を始める前に皆を庭に集め、注意事項としてそう言った。


「あとは、自由に好きにしてね。俺も、物置から自分の手持ち花火持ってくるよ」


「あ、夏弥だ! やっほー久しぶりだね!」

「夏弥、来たんだね」


 元気な声と落ち着いた声が同時に俺を迎える。こいつらは、朝陽あさひ

夕陽ゆうひだ。


「ねぇねぇ、夏弥も花火持ってきたんでしょ? 一緒にやろうよ」

「ちょっと、朝陽落ち着いてよ。花火といっても、一応火を扱うし

危ないから、僕と夏弥と三人で一緒にやろうよ」


 朝陽が、僕に花火を一緒にやろうと誘ってきた。それを夕陽が宥めて、

三人で花火をやろうと提案する。


「確かに、三人でやるのは楽しそうで良いかもな」


 僕は夕陽の提案にのった。


「ちぇっ、夏弥を独占できるかもって思ったのになぁ」


 朝陽は途端にへそを曲げてしまった。


「あはは、今回は残念だけど僕も一緒だよ」


 夕陽が朝陽に言った。


「夏弥を独占したいのなら、一人で夏弥の家にでも行きなさい」


 夕陽は、へそを曲げてしまった朝陽に意地悪くそう言った。


「う……分かったよ兄さん。そんなに意地悪くしないでよ」

「あはは、意地悪くしているつもりはないけどさ」


 ひるんでしまった朝陽に、夕陽は笑いながらそう言った。どうやら夕陽は

朝陽をからかっているみたいだ。


「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて。せっかくの花火なんだし、楽しもうよ」


 僕はギスギスしている二人を宥めた。


「……確かに、夏弥の言うとおりかもね。せっかくの花火なんだし、ちょっと

空気を悪くしちゃったかも。ごめん、夏弥。それに朝陽も」


 夕陽が朝日と僕に謝った。


「大丈夫大丈夫! 兄さん、今の意地悪は後でたっぷり返してあげるからね」


 朝陽も、夕陽に負けずに意地悪く言った。


「あはは……朝陽の仕返しは、覚悟しないとなぁ。前は酷い目にあったし」


 夕陽は困った笑みを浮かべながら、そう言った。


「あはは……それは大変だったね」

「おーい、みんなー!」


 僕が夕陽に同情すると、後ろの方から声が聞こえてきた。

 その声の主は……


「海斗! お前も、来てたのか」


 海斗だった。海斗は、ビニール袋を掲げてにこやかに笑った。


「おう! 花火、いっぱい持ってきたぜ。普通の線香花火に、ネズミ花火に、あとはヘビ玉に、あとは……」

「ネズミ花火にヘビ玉とは、また風変わりな花火を持ってきたね」


 気合を入れて説明する海斗に、夕陽が珍しそうなものを見るような目で言った。


「ネズミ花火とか、ヘビ玉とか、聞いたことないなぁ。どんな花火なの?」


 僕は海斗に聞いた。


「確かに、ネズミ花火とか、ヘビ玉って、あんまり聞かないよな。俺も珍しいなぁと

思ったから買ってきたけど、どんな花火かというと……」


 海斗は花火が入っている入れ物の裏側を見た。大体こういう入れ物の裏側には

取扱説明書が書いてあるから、そこを読むのだろう。


「えーっと、まずネズミ花火は、火を点けるとくるくると回転が始まって、

そこから更に、そこら中に火花を撒き散らしながら進むのが特徴……なんだってさ」


 海斗が説明書を読み上げる。


「ま、百聞は一見にしかずだし、とりあえずやってみようよ」

「そうだね。面白そう!」


 夕陽と朝陽が口々にそう言う。


「じゃ、火を点けるよ」


 海斗がそう言ったそのとき––––


「ちょっと待て!」


 と声がした。


 あわてて振り向くと、そこには––––



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