なんだか嫌な予感……

「朝陽も夕陽もいなくなって、すごい静かになったよねー……」


 僕は海斗に言った。


「あぁ……なんだか、怖くなってきたな」


 海斗は身震いをしながら言った。


「あれあれ? 海斗、お前怖くないんじゃなかったっけ?」


 僕は少し意地悪い笑みを浮かべながら言った。


「そ、そんなこと言ってない! 気のせいなんじゃないのか⁉︎」


 海斗はまた慌ててそう言った。少し表情が焦ってるから、これは怖いのを

誤魔化しているだけとみた。


 なんか、海斗の顔を見てたら少し怖さも和らいできたな。


「もう夏休みも、あと数日で終わりかー……」


 海斗が名残惜しそうにそう言った。


「うん、そうだね。もう夏休み終わっちゃうのかー。ついこの間までお盆だったのにね」


 僕はお盆のことを思い出しながら呟く。

今年のお盆は、お爺ちゃんとお婆ちゃんの家に行ったな。久しぶりに、お爺ちゃんと

お婆ちゃんの顔が見れて嬉しかったなぁ。


「今のうちに、いっぱい思い出作っとこうぜ」


 僕がお盆の思い出に浸っていると、海斗がふとそう言った。


「確かに、そうだね」


 僕はそう海斗に言う。

 高校生だし、今のうちに青春をした方がいいのかもしれない。


 ふと、ひぐらしが鳴いた。



     *



「それにしても、朝陽達、遅くねぇか?」


 海斗が眉間に皺を寄せた。

 確かに、普通はここからお寺まで五分くらいでつくはずだ。往復したとしても

十分くらい。もう二十分くらいは経っている気がする。


 本当に、どうしたんだろうあの二人。

ふと僕の脳裏に嫌な予感がよぎる。もしかしたら本当にお化けに攫われてしまった……とかではない、かな?


 僕は少し不安になった。


「もしかして、何かあったんじゃ……」


 海斗は少し声を震わせながら言った。


「へ、変なこと言うのやめろよ!」


 海斗が変なことを言うから、流石に僕も怖くなってきた。


「おーい、二人とも! 遅くなってごめん!」


 ふと、朝陽っぽい声がした。振り向くと、朝陽と夕陽が戻ってきたところだった。


「あ、朝陽と夕陽……待ってたんだよ……」


 僕は朝陽と夕陽の方を振り向き、縋るように言った。


「えぇ、俺たちそんなに遅かったかな? ねぇ兄さん?」


 朝陽が言った。


「僕たち、そんなに遅くはなかったはずだよ。五分くらいで帰ってきたはず……」


 夕陽も、眉間に皺を寄せながら言う。


「おかしいな、俺たちの体感だと、十五分くらいはかかっていたはずだけど」


 海斗が、双子を訝しみながら言う。


「気のせいじゃないの? ほら、次は君たちの番だよ」

「ちょ、ちょっと、押さないでよ!」


 朝陽が僕の背中を、入り口まで押しながら言う。


「はぁ、ここまで来たら行くしかないよな。とはいっても、お寺の大木に

貼ってあるカードに、自分の名前を書けばいいだけなんだろ?」


 海斗はどうやら覚悟を決めたようだ。


「じゃあ、僕も行かなきゃね。さっさと行って、さっさと帰ってこよう!」


 僕は海斗についていくことにした。大丈夫、大木に貼ってあるカードに自分の名前を書いて、ここに戻ってくればいいだけなんだから……。

 半ば、自分にそう言い聞かせていた。


「じゃあ、行ってらっしゃい」


 夕陽が僕たちを元気に送り出した。


 もうここからは、覚悟を決めて行くしかない。



     *



「やっぱ、スマホのライトだけじゃ心許ないよな」


 海斗がそう言った。

 僕も正直、そう思っている。


 もうちょっと光を増やした方が心強いかなと思うけど、でもそれじゃ雰囲気は

でないかなぁ……。


「そういえば、今日って汐はいないのか?」


 海斗がふと僕に聞いた。


「あ、あぁ……汐は、今日は風邪を引いたとかで、休みなんだって」


 僕は海斗に教えてあげた。


「そっか……それは残念だな。この肝試しも、あいつだって一緒に参加したかったよな、きっと」


 海斗がそう呟く。

 確かに、汐もきっと肝試しに参加したかったのかもしれない。いやでも、普段の

あいつの姿を見ていると、ゲームが最優先って感じだけどな。あいつって、いつもゲームが最優先って感じで動いてるからな。


「どうかなー、汐はゲームとかしてる方が好きなんじゃない? あいつの性格的にも」


 僕はそう海斗に言う。


「まぁ確かに、あいつは寝食も忘れてゲームに没頭することもあるって聞くからな。

この前なんか、目の下にクマできてたし」


 海斗はそう言った。


「それはやばいね……え?」


 僕が相槌を打った瞬間、ふと首元に冷たいものが触れた気がした。


「うわぁっ⁉︎」


 僕は当然悲鳴をあげた。


「どうしたんだ、夏弥⁉︎」


 海斗は僕がいきなり悲鳴をあげたので驚いたのか、僕を心配してくれた。


「い、今……何か冷たいものが、僕の首に触れたんだ」


 僕は首を押さえながらそう言った。


「冗談やめろって……あぁ、夏弥のおかげで俺も怖くなってきた」


 海斗は肩をさすりながらそう言った。


「とにかく、早く寺の大木のところまで行って、名前を書くぞ!」


 海斗はそう言い、お寺の大木まで走り出した。


「あっ、待ってよ!」


 僕は海斗についていくだけで精一杯だった。今の感触は、一体なんだったんだろう。

気のせい……だと、思うことにしておこう。



*



 お寺の大木が見えてきた。あとは大木に貼ってあるカードに、僕と海斗の名前を

書いて戻ってくれば良い。


 もう辺りはすっかり闇に飲まれている。どこからかカラスの鳴き声が聞こえ、

それがさらに不穏さに拍車をかけている。


「この木に、カードは……お、あったあった。じゃ、ぱぱっと名前書いちゃおうぜ」


 海斗がそう言い、夕陽から貰ったペンを取り出して、自分の名前を書いた。

僕も海斗からペンを借り、自分の名前を書いた。


「これでやっと戻れる。海斗、一刻も早く戻ろう」


 僕は海斗にそう言い、大木を後にした。



    *



「そういえば、汐が来てないのは納得いったけど、陽太ひなたは?」


 海斗が僕に聞いた。


「あぁ、陽太は誘っても、都合がつかなかったみたい」


 僕は陽太のことを思い出しながら言った。


「そっか。それは残念だな。そういえば、花火の時もいなかったし、夏休み中

ほぼあいつには会ってないよな」


 海斗がスマホのライトを揺らしながら言う。


「陽太は夏休みだし、家族でどこか旅行に行ってるのかもしれないよね」


 僕は海斗に言う。


「旅行かぁ、うちはそういうのあんまりやらないし……ん?」


 海斗がふと立ち止まった。


「どうしたの海斗。急に立ち止まって」


 僕は海斗に聞いた。


「ちょっと静かにしてろ。……何か聞こえないか?」


 海斗が耳をすませながら言った。


 え? 何か聞こえないかって、海斗には何か聞こえるってこと?

僕も、海斗のように耳をすませてみた。


「やば。なんか女の人のうめき声? みたいなやつが聞こえるんだけど」


 海斗の声が少し震えている。僕も、微かだが女の人のうめき声が聞こえてきた。

何を言っているのかは聞き取れないが、何か怨みがこもっているような声がした。


「ぼ、僕も……聞こえた。なにこれ、とりあえず、早くここから出よう」


 僕は恐怖のあまりに上手く声を出すことができなかった。


「早く、朝陽と夕陽のところに帰った方がいいよな、うん。よし、帰ろう」

「そうだね、朝陽と夕陽も心配してるだろうし……」


 海斗もそう言い、僕と海斗は一目散に逃げ出した。







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