暑すぎる

翡翠琥珀

暑い

「あー、今日も暑いな」


 僕はただそう呟く。別に、周りに人がいるわけでもないのにそう呟くのだ。


「おっ、夏弥じゃん。おはよう!」


 ふと明るい声がした。振り向くと、亜麻色の髪を束ねている僕の友人が髪パックのジュースを片手に立っていた。


「おはよう。相変わらずお前はただ立ってても絵になるな」


 僕は友人に声をかけた。


「そうか? 朝から褒め言葉をくれて、サンキュ!」


 友人はさも上機嫌そうにニカッと笑って言った。

 こいつの名前は、海斗かいとだ。


「しっかし、暑いなー。こう暑いと、授業もまともに受けられる気がしないよな」


 海斗が額の汗を拭きながら言った。


「そうだね。それに、こんな暑さなのに登校してる僕達偉くない?」


 僕は海斗に言う。


「まじそれな。もう、先生登校してきた俺たちに免じて今日の時間割減らしてくれないかな」


 海斗は参ったように言う。


「うん。それか、もう今日はこのまま休みでもいいよね」


 僕はふと思ったことを言った。


「おぉ! なんだそれ、めっちゃ名案じゃん! そうだ、もうこのままサボっちゃおうぜ」


「うーん、それはどうだろうなぁ。学校行かないと、怒られるよ。先生にも、親にも」


 僕がそう言うと、海斗は萎んだ風船のように元気を失くした。


「うわー、そうか。やっぱり、ないかー」


 と一人でぶつぶつ言っている。

 気持ちはわかるけど、なんだか海斗は小学生みたいだな。学校が休みになるかどうかでこんなに一喜一憂するなんて……。


「まぁでも、なんとか今日一日頑張ろうよ。今日は月曜日で一番嫌な日だけどさ、

一週間乗り切ったお前には、特別に僕の家でゲームする権利をあげよう」


 僕は海斗に言った。海斗は、『ゲーム』という単語を聞いて、目の前に骨を

突き出された犬のように、急に元気になった。


「まじか! じゃあ俺、一週間頑張っちゃおうかなー」


 海斗は単純で助かるな。


 さてと、じゃあ、だるいけど今日も一日頑張るか。


 僕は海斗と一緒に学校までの道を歩いた。

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