暑いと言ったら……

 僕と海斗は、学校から下校していたところだった。


「あーしっかし暑いな。こう暑いと、何にもやる気が起きないよなー」


 海斗が口を開いた。


「確かにそうだけどさ……。海斗は、別に暑くなくてもやる気なんてないでしょ?」


 僕は少々海斗に呆れながら言った。


「さすがは夏弥! 俺のことをよく分かってるなー!」


 海斗は僕の背中をバンバンと叩きながら言った。


「あはは……まぁ、普段のお前の姿を見てるとな……」


 僕はため息混じりにそう言った。


「でも、暑いって言うと余計暑くなるから、涼しいって言えば少しは涼しくなるんじゃないかな?」


 僕は海斗にそう提案した。


「確かにそうだな。じゃあ、涼しいって言うか」


 海斗は言った。


 さては海斗、僕の言った事を真に受けたな? これも、よく言われる常套句の気が

するんだけどなぁ。

 普通は涼しいって言っただけで涼しくなる、とは限らないし……。


「涼しいなぁ、今日ほど涼しい日はないかもなぁ」


 海斗は僕の言った通りに、涼しいと連呼し始めた。


「うんうん、涼しいなぁ!」

「……」


 涼しいと連呼し始めた友人をよそに、僕はただ押し黙ったままだった。

悪い、海斗。もしかしたら気の毒な事をお前に教えてしまったかもしれない。


「あれ、そう言ってたらなんかほんとに涼しくなってきたかもしれない」


 海斗が言った。え、ほんとに?


「おい、無理して涼しいって言わなくてもいいぞ」


 僕は海斗に言った。


「いやいや、そうじゃなくて。本当に涼しいんだって。なんでだろうな?」


 海斗は勝手に首を傾げた。


「知らないよそんなの」


 僕は投げやりに言った。全く、海斗のこういう思い込む精神(?)は見習わないと

だめかな、僕も。


 そう思っていたらなんだか僕も、全身が涼しくなってきた。

 あれ、ついに僕もおかしくなってきたかな……。


「……おかしい、僕も、全身が涼しくなってきたな。海斗の精神に当てられたかな……?」


 僕は言った。


「いや、俺の精神ってなんだよ」

「いや、海斗独特の雰囲気っていうかさ……。僕の言う事を間に受けるというか、

思い込みが強いというか……」


 僕は言葉を濁しながらそう言った。


「あー、やけに涼しいと思ったら。これってもしかしたらミストかもな。ほら、

あれ」


 海斗は上を見上げながら言った。上を見ると、電柱から霧のようなものが出ていた。

いや、電柱に白い筒状のものが取り付けられてあり、そこから霧が出ていたよう

だった。


「涼しい正体は、あれだったのか」


 海斗は僕に言った。


「はは、涼しい正体が分かって良かったね」


 僕は海斗に微笑みながら言った。


「そうだな。あー、なんかお前といると、楽しいことばっかで退屈しねぇわ」


 海斗は僕に言った。


 それは僕も、同じだ。海斗といると、この夏を楽しく乗り越えられそうな気が

する。

 僕は太陽のように明るく笑う海斗を見ながら、そう思った。


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