夏休み前の終業式

 ついに明日から夏休み。今日は終業式だ。


 終業式の後のHRで、通知表が配られた。僕は、通知表の成績はそんなに悪くも

ないし、たいして良くもなかった。まぁまぁ、平均値ってところかな。


「では、皆さん怪我や事故に気をつけて楽しい夏休みを送ってくださいね。

あと、くれぐれも宿題は忘れないように。では、さようなら」


 担任の先生がそう言ったことを皮切りに、クラスメイト達は次々と教室の外へ

飛び出していった。


「海斗、帰ろうよ」


 僕は海斗の席に行って、そう言った。


 しかし海斗は青ざめたまま、立ちあがろうともしなかった。


「どうしたんだよ。お腹でも痛いのか?」


 僕が海斗に聞いても、海斗はぶつぶつ何かを言っているだけだった。


「通知表……一が三つ……うっ……」


 ははぁ、さては通知表の成績が悪かったのか。


「そんな、通知表くらいでいちいちしょぼくれるなよ。たかが通知表だろ」


 僕はそう言ったが、どうやら海斗には響いてないらしい。


「くっ、お前はどうせ通知表の成績が良いからそう思うんだろ⁉︎

俺の気持ちなんて分かるまい!」


 どうやら自分の世界に浸っちゃってるらしい。やれやれ。

 僕はため息をつくと、海斗に優しく話しかける。


「大丈夫だって、通知表なんて、親御さんに寝る前にパッと見せてから

すぐ寝たふりすればいいよ」


 海斗は僕の言葉を聞き、ゆっくりと顔を上げた。


「ほ、本当に、そう思うか?」


 どうやら僕の発言をマジで信じているらしい。困ったな、口からでまかせで

言ったことなのに。


「ま、まぁそうだね。僕も毎回その方法を使ってるよ」


 うん、しまった。普通に自分で墓穴を掘ってしまった。


「マジか! いいこと教えてくれてありがとな、夏弥! 俺も今日からその方法を

使ってみるよ!」

「うん……是非……」


 僕は冷や汗が出ているのを肌で感じていた。ごめんな、海斗。しかし海斗が

素直で助かった。他の奴だったら……


「ちょっと、今ゲームしてるから、悪いけど静かにしてくれる?」


 ふと後ろの方から声がした。振り向くと、スマホを片手に僕と海斗を見ている

奴がいた。


うしおじゃん。まだ帰ってなかったんだ」


 僕は汐に声をかける。


「うん。まだ暑いし、下校時間まではまだ時間があるしね。教室である程度

涼んでから帰るつもりだよ」


 汐は言った。


「その方が良いかもな。帰宅途中に熱中症になったら大変だし」


 海斗が言う。


「水分と塩分もちゃんと摂った方がいいかもね。水分と塩分をちゃんと摂れば

熱中症にはなりにくいはずだよ」


 僕はそう言った。


「まぁ、塩分は摂ってるし、水分もちゃんと摂ってるよ」


 汐が言う。


「へぇ、汐がちゃんと熱中症対策してるなんて、結構意外だな」


 僕はそう呟く。


 この汐って奴は、授業が終わればゲームばっかりしている、困った奴だ。

 汐は、どんなジャンルのゲームもやっているらしい。

 音ゲー、FPS、育成ゲームなどなど……


 なので、ゲームに関してはこいつはプロだと言っても過言ではないかもしれない。


「熱中症対策つっても、汐の事だし、ろくな熱中症対策はしてないだろうな……」


 海斗がふと呟く。

 確かに、何故か不安になってきた。徹夜でゲームしている汐が、熱中症対策をまともにしているとは思えない。

 試しに、どんな熱中症対策をしているのか聞いてみよう。


「ねぇ汐……どんな熱中症対策してるの?」


 僕は汐に聞いた。


「聞きたいなら教えてあげるけど……基本的に、塩分はポテトチップス、水分は

ジュースで摂ってるよ」


 汐はさらりとそう言った。

 え、僕の聞き間違いか? 今こいつ、水分をジュースで摂ってるって言った?


「なぁ海斗……。俺の聞き間違いじゃないよな? 今こいつ、塩分をポテトチップス、水分はジュースで摂ってるって言ったよね?」


 僕は海斗に聞いた。


「ああ、汐は間違いなくそう言ったぞ……」


 海斗もありえないといった様子で、僕を見て言った。

 塩分をポテトチップスで摂って、水分はジュースから摂るとは……

 流石汐だな、ちゃんとした食事をしているのか心配になる。


「ん? どうかした?」


 汐が僕達を見ながら言う。


「汐、お前なぁ……。確かに塩分はポテトチップスで摂れるかもしれないけど、

水分はジュースで摂るって……糖分の量がやばいぞ。それに、ジュースよりも

麦茶とかの方が、水分補給には良いらしいし、それ飲んでみなよ」


僕は汐を説得する。


「でも、塩分をポテトチップスで摂るっていうのも、中々ヤバくない?

まぁまぁ不健康だよな。ポテチ美味いし、気持ちは分かるけどさ」


海斗が僕に耳打ちする。

確かに、それもそうだな。ポテトチップスも健康的とはとてもじゃないが言えない。


「汐……お前、夏休みの間に食生活見直した方がいいぞ……」


僕は汐に言った。


「え? 食生活かー、別に俺はこのままでもいいけどなぁ」

「僕が心配なの!」


そう言った汐に対し、僕はついそう叫んでしまった。


「なんかお前らのやりとり見てたら、通知表のことなんてどうでもよくなったわ……

夏弥の言う通り、今日は通知表見せてすぐ寝たフリしよーっと」


海斗がそう言ったのが聞こえた。


まぁ、海斗がそれでいいならもういいや。


僕は海斗と汐に呆れながらそう思った。


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