海斗の家に来た

「はぁ〜風が気持ちいいなぁ」


 僕は海斗の部屋で、オレンジジュースを啜りながら安堵のため息をついた。


「おい、さっきアイスも食べたのに、ジュースも飲んで大丈夫なのか?」


 海斗がそんな僕を見て、苦笑しながら言う。


「大丈夫、甘いものは別腹だから!」

「はは、全く……。ジュースも甘いだろ?」


 元気にそう言った僕に、海斗が呆れながらツッコむ。

 あれ、いつもとは違うな……。いつもは僕がツッコミ側で、どちらかというと海斗がボケる側だったと思うんだけど……。まぁ、たまにはこのポジションも良いな。


「ところで、さ」


 海斗がそう言って僕の隣に座った。何かやけに距離が近いような……?


「どうしたんだよ一体––––」

「夏休みの宿題見せてくれ!」


 僕が疑問を投げかけようとしたとき、海斗がいきなり土下座をしてきた。

 夏休みの……宿題……? 僕は急に土下座をしてきた海斗を見つめながら思う。


「どうしても分からない問題があってさー! 夏弥なら分かるかなと思って……」


 そうすらすらと言い訳を述べる海斗に、僕はこれまでの海斗こいつの行動を

思い返してみた。


 ––––コンビニで偶然会ったこと、一緒にアイスを食べたこと、オススメの小説を貸すよって言って、海斗の家まで行ったこと……


 そうだ! 全てはこいつが企てたことだったんじゃないか⁉︎

 僕はこれまでの海斗の行動を思い返し、その結論に至った。

コンビニで偶然会ったのと、一緒にアイスを食べたことは偶然だとしても、オススメの小説を貸すよって言って、僕を家に招いたのは、宿題を手伝わせるため……⁉︎


 僕はそこまで憶測をして、静かに海斗に向き直った。


「ちょ、何その顔……。怖いからやめて?」

「はぁ。本当にお前こういう時だけ頭回るよな……。オススメの小説を貸そう

って言って、僕を家に呼んで、そのまま僕に宿題を手伝わせる気だったってこと⁉︎」

「うわぁ夏弥がガチギレしちゃった〜。そりゃあ俺が悪いけどさ、うん」


 怯んでいる海斗に、僕は怒りをガンガンぶつけた。


「大体、海斗は虫が良すぎるよ。自分が困った時だけ僕に頼ってるし、そうやって困ったらすぐ人に頼るっていうのは、自分で考える力が育たないと思うけど。今回は

もう見せてあげないよ! 自分でやれ!」


 僕はそこまで言い切り、肩で息をした。


「これは夏弥ガチ怒りだ……しょうがない、自分でやるか」


 海斗の小さい呟きが聞こえた。


「と、とりあえず夏弥、お前落ち着けって……」


 海斗が僕を宥めるように言った。

 だが僕はもう止まらなかった。


「さっきは発想力が良いとか言っちゃったけど、さっきのは撤回するよ。

……今から一時間たっぷりお説教してあげるから、覚悟してね?」

「うわぁー助けてください神様仏様夏弥様ー……」


 どうやら海斗は覚悟を決めたようだった。


 今日くらいは、海斗にしっかりお灸を据えてあげよう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る