第7話 もしかしてあいつのこと、気になる感じ?
最後に鏡を見てと。
「よしっ」
トップスはシンプルに白のブラウス。それに群青色のテーパードパンツを合わせている。いわゆるきれいめコーデかな。ブラウスは首周りのギャザーやフレアシルエットが可愛らしくて最近購入したやつ。
最近はめっきりと失敗しなくなったメイクを軽く済ました後、チェックを行った。
ぶっちゃけ特に意識をしていた男性ではないけれど、なんだかんだ異性と二人きりで遊ぶのは随分と久しぶりで、いつもより念入りに身だしなみチェックをした。
落ち着いたベージュのバッグを手に持ち、待ち合わせの場所へ向かう――。
歩いて向かった待ち合わせ場所に指定された駅前までの移動は、少し体力が削られた。夏は過ぎたと言うのにまだまだ暑いね。この暑いまま年を越すのかと思わざるを得ない程に。
身体が汗ばむのをやや不快に思いつつ、少し早めに到着した。まさか汗まみれの顔を見られるわけにはいかないし、建物内で涼みながら彼の到着を待ったのだった。
さて、お相手は例の飲み会の時に出会った真田涼介くん。はっきりと言って印象がそれほど残ってはいないのだが・・・。
そんな彼との会話を待つ間に思い出しておく。慶次さんとは同じ大学の学部だと言っていたので勉強が出来る人なのだと思うが、漫才だとボケ担当のようなキャラクターで、子供のように笑う人。それなりにいい友達になれそうではある。
お誘いを受けたのは、例の飲み会の主催者であった慶次さんと、その後の皆の関係性が気になったからと言うのも大きい。
申し訳ないが、今彼と進展するつもりはイマイチなかった。私の友人の千鶴が飲み会の時に涼介くんとすごく楽しそうに話をしていた様子は見ているので、むしろ渡りを付けてあげたい気持ちすらある。
「
少し遠くから手を振りながらこちらに歩いてきた。身長は180センチくらいはあるだろうか。165センチある私よりも優に背が高い。
ゆったりとしたネイビーのデニムパンツに淡い青色のシャツ。シンプルだけど整った容姿でいて高身長の彼によく似合っていた。
「ギリギリになってごめん!」
「いいよ、私もさっき着いただけだし」
「本当?じゃあ行こっか」
そう言って近くのパスタ屋さんに入った。あらかじめ私の行きたいお店を伝えていたから、段取りはかなりスムーズだった。
店内ではなく、お洒落で開放的なテラス席に案内された私たちは、何故か改めてお互いの自己紹介をしてから、会話を始めた。
初めこそ緊張しているように見えた彼の話は失礼にも案外面白くて、料理を待っている隙間の時間も全く気にならなかった。
料理を堪能した後は、私が知っているこじんまりとしたカフェに移動をした。
お互いに簡単に注文を済まして、飲み物がお互いのテーブルに到着。すこしゆったりとしたジャズが店内を流れている。お話をするのにピッタリの空間だった。
さて、例の質問をする時間が来た。
「涼介くん、あの飲み会のことなんだけど・・・カラオケルームでの出来事、何か覚えてる?」
「いいや?俺爆睡だったし全然!気がついたらあんな感じだったんだよなー」
「そうなんだ!やっぱりそうだよね。って私もめっちゃ寝てたんだけど。
・・・ちなみに、慶次さんに何か変わったことあった?」
「うーん・・・あいつはいつも通りかなー。最近は俺を異様に生温かい目で見てくるけど」
もしかしてあいつなりに俺のことを心配してくれてんのか?いや、あいつのことだし・・・何て小さな声で涼介くんはブツブツとつぶやいている。
「それじゃあ、慶次さんとめぐみさんとの二人で何かあったりしたかな?」
「何かあったかどうかは聞いていないから俺にはわかんないなー」
んー。と目を閉じて考えているよう。
「あっ」
思い出したかのように言う。
「2人に関係のある話かは分からないけど、ついこの間の講義の時、慶次のやつすっごい冷めた目で携帯で誰かと連絡を取っていたんだよね。普段は常にニコニコして穏やかな表情が多いからやけに引っ掛かってたんだよ。横で講義を受けていて背筋が凍るような感覚っつーか。」
「あと、最近やけに俺との付き合いがいい」
ポンと右の拳を左の手のひらとを打った。
だけどこちらはクエスチョンだ。友人なのに付き合いが悪かったの?
「今日のランチに来ていく服がないから付き合えなんて言ったら本当に付いて来てくれてさ。普段なら絶対に来てくれないからな・・・」
「な?おかしいだろ?」と、私に聞いてくるが、聞かれても正直困る。それは友達としてどうなんだろう?と素直に思いつつ、涼介くんが感じる違和感に、カラオケルームでのあの出来事と合わせて考えてみる。
もしかすると、涼介君が見たという、慶次さんが冷めた表情をしていた時、やり取りをしていたのはあのクソ女ではないか。
・・・まさか、別れたのか?最も、切り捨てたといった表現が適しているかもしれないが。
あの光景を全て見ていた慶次さんが別れを切り出していても何ら不思議なことではないし。
まあ、名探偵でもない私には何の答えも導き出すことは出来ない。あの時私が見た、彼の去り際に見せた誰も寄せ付けないような冷たい表情をその時にしていたのだろうか?
何故か分からないけど、心臓が締め付けられるよう―—
今もなお、強烈なインパクトを残したあの表情が頭から離れなかったのは確かであった。ニコニコして私のことも気遣ってくれたあの優しげな顔と、無という一文字が相応しい冷めた表情の彼の顔が交互に浮かぶ。
「もしかしてあいつのこと、気になる感じ?」
温かい表情を浮かべた涼介くんがこちらを見つめてくる。
「え?いや、私は・・・あのっ」
急に顔が熱くなったのを感じる。待って。いや、私は何もそんなつもりではなかったんだけど。
「うんうん、あいつってば自己評価が低いんだけどいい男だもんな」
腕を組みながら目を閉じて語る涼介くんはどこか誇らし気に見える。
「また皆で遊ぼうってことにしたら、あいつも来てくれると思うけど、どう?」
心臓が大きく跳ねた。
「っ! それじゃあお言葉に甘えて。千鶴にも声かけておくね」
私の口はえらく素直であった。微妙に口と心がリンクしていない気がするが、拒否する理由もないだろう。その後は、急にうるさくなった心臓を何とか悟られないようにと必死だった。
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