第3話 翌朝、都合よく夢オチでしたなんてのは無いわけで。

「うえぇ、まだ気持ち悪い…」


翌朝、世間はまだ木曜日の朝。昨晩は後のことを考えずに飲みすぎてしまったことで、目が覚めても体調はおおよそ万全とは言えなかった。

一度胃の中のものを出し切ったお陰で最悪とまではいかずとも、身体の倦怠感と鈍く痛む頭で憂鬱な気分は続いている。お腹の中で何かが蠢くような感覚もまだ残っている。


こんなにも二日酔いがキツイとは思わなかった。間違いなく人生でも割と上位を占めるであろう程、体調の悪い朝であるし、記憶が曖昧になるというのがこんなにも恐ろしく不安になることだとは思わなかったよ。


もうお酒は見たくも飲みたくもない——

自身のアルバイト先は居酒屋であるために、それは土台無理な話であるのだが。今はまだベッドからはまだ動けそうにもない。


時計の針は10時を過ぎた位置にある。大学時代というのはとはよく言ったもので、特に縛られる要素が少ない2年次は力が抜けがちだ。良くて中の上といった大学に通う僕はというと、今日は必修科目もなく、午後からの授業に出ればいいだけで、とてもイージーなのである。

まあ、夕方からはバイトがあるが、木曜日にお店が混雑することも考えにくいため、万全な体調でなくても問題ないだろう。この辺が多分正社員とアルバイトの意識の差だね。


「だめだ…もっかい寝る…」


普段なら携帯のチェックをするのだが、メンタル的にカバンの中に入れたままで取り出していない。ああ、昨日の時点で携帯の電源も落としてあるよ。

寝る前にパッと見ただけで、やはりというか桐生めぐみからの着信がスクロール出来るほどに入っていたのにドン引きしたんだ。

今日は友達の誰とも授業が被らないので電源は当分付けなくても問題ないだろう。


昨日の晩、悩みの原因を断つことを考えて行動したが、改めて考えると悩みというのは全く解決していない気がする。

無自覚に無解決な方策を採る僕は、もしかするとにかけては、日本ランカーレベルなのかもしれない。


あれ……?このまま無視を続けるとメンヘラルートに突入したり?

いやいや、待て、めぐみは陽キャタイプだ。闇落ちするなんて想像ができない。きっと僕のことはいずれ諦めてくれるだろう。


改めて振り返ってみると僕があいつと一緒にいた時は、少し背伸びしていた部分も正直あったと思う。今後彼女という存在でなくなるとなれば、開放感で空をも飛べそうな気分だ。


今まではどうだった?

毎日欠かさずに連絡を入れること、二人の休みが合う日にはなるべく会うようにして、長期休みの前には決まって旅行のプランを立ててさ。


特に最近は、僕の自由に過ごせる時間が減ってきていると感じていた。

交友関係だってそう。他の女子と連絡すること、会うことを極端に嫌っていて、僕はなるべく彼女の機嫌を悪くさせないように距離を保って周りの女子達と接していた。

記念日のハードルも徐々に上がってきていたね。ハロウィンやクリスマスなどのイベントに敏感な気質にはウンザリしていたまである。


知らず知らずのうちに小さい我慢を幾つも積もらせていたんだろうか。そういったことに今になって気付くというのだからこれまた情けない話である。


きっと目の前で繰り広げられていた浮気がどうとか、きっかけは糞みたいな出来事だったが、遅かれ早かれ限界がきていたんじゃないかな。



そうそう、誠一は同じ大学、同じ学部なのであるが桐生めぐみとは大学自体が異なる。同じ大学同士の合コンなんて、あまり嬉しくないよなって思ったからこそ企画したんだよね…。


当然、彼女の存在は誠一には伝えていたし、あの現場での言動は泥酔状態であったとしてももはや看過はできない。


――復讐、報復。社会的にこの二人へ攻撃出来る、絶対的なカードが僕にはあって。

………それを放棄するには勿体ないよね?


もしやるなら狡猾に。まあそれで心が晴れればいいんだけど――

と、こんなだからサレ男なのかもしれない。まあ、自分の彼女と親友が浮気をしているシーンを目撃して何も感じないのは、僕の心も壊れかけていたのかもしれないが。


いずれにせよもう元には戻れない。それは間違い無い。なんたって恋人であっためぐみ、親友であった誠一は僕の中では既に亡く、今は他人と同義であるのだ。


酔っていても素面でいても相変わらず上手くまとまらない思考は平常運転だったようで、自分の不器用さというか頭の回転の悪さを呪う。真剣に考えるのが馬鹿らしいような屑を相手に、何で気を遣えばいいんだよって話だ。


考えだすと止まらない負のループに入ったことで、十分な睡眠は取れないまま学校の授業に向かうこととなった。

最低限の身だしなみは整えて出席したが、こんな体調で授業を聞くことなんて到底無理というもの。結局大教室で行われた授業の内容は、碌に耳に入らないまま微睡に落ちることになるのだ。……恐るべし二日酔い。


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