第21話 彼女の人柄が好きだったことは今も変わりはない。
いつも心に余裕を持ち、心配事や悩み事を抱える友人に対しても積極的に働きかけることが出来る、皆を導いてくれるような、そんなまるで太陽のような彼女が好きだった。
そんな彼女、
私、
あの日以来、彼女の時折見せる悲痛な表情、挙動が落ち着かず、皆を避けるような行動。十分な睡眠が取れていないことを窺わせる目の下のクマ。触れて欲しくないような拒絶の感情を表す彼女を見て、いつもと違う、明らかに普通じゃないことを察したのは、直ぐのことだった。
それでも一向に話そうとしない彼女が、どんなことを抱えているのかは分からなかったけれど、突然の友人の変化に、戸惑いの感情が大きかったのは本心で。
話してくれないことが悲しくて、寂しいと感じたのは無論私だけではなく、他の友人たちもだ。彼女が以前までの明るさを取り戻してくれるよう、皆そう接していたんだけど・・・ついに話してくれることは無かったね。
あの日と言うのは少し前のこと。
大学での仲良しグループの1人である桐生めぐみちゃんから、男女3対3の飲み会に誘われた私は、あと1人足りないという当日のメンバーに、
私とめぐみちゃんが所属しているグループではないけれど、可愛くて社交性も備わっている瞳が適任だと判断した私が強く推した。まあ、個人的に凄く仲良しであるという理由が最大の理由かな。尤もそれは、他のメンバーは彼氏や片想い中の相手が居る子が多くて不参加だったというのもあるが。
なんでも、めぐみちゃんの彼氏である
彼氏の為に必死に私に頼み込んでくるその姿に、私は参加する旨を伝えた。特に男性との出会いを求めたり、付き合いたい!とかは考えていないんだけど、少しだけ興味があった。私も瞳も彼氏なんて随分といなかったことだしね・・・
さて、瞳のことを話すとめぐみちゃんは問題なく了承してくれた。その日のうちに瞳に飲み会の話をすると、提案に対し前向きな回答をしてくれた。
いっつも私のことを優先してしまう変な癖があるから、無理していないか心配だったんだけど、本人は至って無理はしていないと、ポジティブなことを言うから、きっと大丈夫なのだと思うが・・・。
その後に私とめぐみちゃんと瞳の3人で当日の予定を話し合った。
無事にメンバーの確保が出来たと安心して一息ついているめぐみちゃんの姿は何だか可愛らしくって和んだし、私も瞳も彼氏想いの良い子なんだなと思っていた。
その飲み会は、めぐみちゃんの彼氏である慶次くんの他に、
私と瞳、そして慶次くんと涼介くんの4人でたくさんお話をしたように思う。男性陣2人のコンビネーションが抜群に面白くって、凄く充実した時間であったのを覚えている。面白おかしく色んな話を展開していく姿に居心地の良さを感じたほど。
一方で誠一くんとはあまり話す機会が無く、主にめぐみちゃんが失恋話などを聞いていたようであった。
全体の雰囲気が良く、楽しく話し込んでいるとついお酒が進んでしまったようで、途中からフワフワした感覚となっていた。
ところどころ曖昧になった記憶だが、最初の飲み会での盛り上がりをそのままに、居酒屋から直ぐ近くのカラオケルームへ場所を移して二次会を行うことになった。
しかしながら私は、着いて早々カラオケルーム特有の薄暗い部屋の中で不用心に眠ってしまったのであった。
幾らか時間が過ぎたのか、やがてぼんやりと目を覚ますと部屋全体が少し異様な空気に包まれていることに気が付く。
めぐみちゃんの彼氏は既に居なくて、めぐみちゃんは何度も電話を掛けようとしている。誠一くんは挙動がおかしくって、涼介くんの『どうした』という言葉にも反応を示さない。
何事かあったのかと瞳と私は目を合わせて思案するが、埒が明かないような状況に帰ろうと提案をした。
尋ねたいことは色々あったけど、皆明日も学校があったからね。
そんな訳で家に帰った私は、翌日に備えて眠る準備に取り掛かった。疲れていたのか、ベッドに横になるとあっという間に眠りについた。これが飲み会当日のこと。
ちなみに翌朝の体調不良から結果的に学校に行くことは諦めている。人生初の二日酔いが思いの外キツく、起き上がることが出来なかったんだ。いわゆるサボりというやつ。
幸い、これまであまり欠席したことがない講義だった為、瞳に断りのメッセージをTALKで送って休養を取ることにしたのだった。
飲み会から5日後の月曜日のこと。ようやく瞳と2人で話し合いを行う。
本人から散々話したいことあると聞いていたんだけど、タイミングが悪くて結果的にかなり遅くなった。
『やっと、やっとこの話が出来るよ・・・!』と、少し興奮気味の瞳は、ここ数日間、私の姿を探したり、キャンパスで会っても他の友達と一緒にいたことで今回の話をすることが叶わなくて、一人で悶々としていたらしい。
そんな瞳を落ち着かせてから聞いたのはあの飲み会でのめぐみちゃんのこと。
ああ、この話し合いはというと、学校の敷地内に最近できた小洒落たカフェテリアで、女子同士見た目可愛らしいチーズケーキを注文していたんだけど、聞いた話というのは可愛らしい話でもなんでもなかったな。
皆が寝静まっていたカラオケルームにおいて、最近失恋したという安本誠一くんが、何とめぐみちゃんと絡み合っていたらしい。それを慶次くんが目にして帰っちゃったってさ。何とも酷い話だ。
私が眠っていたときに事が起こって、一連の流れを瞳が目撃していたそうな。ただ瞳も、すべてを見ていたという訳では無いようだけど。
そんなどす黒い話を聞いた私は、感情的に暫く思考が追い付かなくて色々と整理が必要だった。
ただ少し考えると、カラオケルームで目を覚ました後の異様な状況、学校でのめぐみちゃんの挙動がおかしいことこうした事実がパズルのように繋がっていく。
そしてカラオケルームのことを尋ねてきたこと、今考えると不自然だった。私は飲み会翌日の学校を休んでいたので、TALKでのメッセージだったんだけどさ。
お疲れ様の言葉と併せて、カラオケルームでの出来事を覚えているか?なんて普通は聞かないよね。メッセージが届いたときは体調も悪くてあまり深く考えていなかったけど・・・
もしかしたら、同じ大学の私たちにも見られたかも知れないって思うと不安だったのかも―——
直感的にそう思う。
直接めぐみちゃんに聞かれたという瞳は、問いかけてくる姿が怖く感じたとのことで、自己防衛的に寝ていたって咄嗟に嘘を言ったらしい。
結果的にめぐみちゃんはその返答に安堵の表情を浮かべていたようで・・・
瞳の情報を一方的に判断材料にすべきでは無いと思うんだけど、これほど状況に納得が出来ることと、私の経験的に瞳がこう言った嘘は付かないということ自信が持てる。そうなるとめぐみちゃんに対する疑念がますます大きくなっていくね。
何にせよとんでもない話を聞いてしまった。
そして話はそれに止まらず、瞳は私と話が出来ていない状況下で、更に行動を取っていたらしい。
それは慶次くんの友人である真田涼介くんとランチに行き、色々と当日やその後のことを独自に探っていたこと。瞳の行動力には感服する他ない。
その涼介くんでさえも当時は爆睡していたようで、何もわからないと言っていたようだけど、飲み会後の話も興味深いものだった。
持ちうる私の情報、瞳から聞いた話、自らの気持ちの整理を行いたい私は、しばらく目の前でコロコロと表情を変えている瞳をいじって存分に愛でていたんだけど、何となくめぐみちゃんの彼氏である慶次くんが既に別れているのではないかと言う考えに至った。
まだ確信が持てない段階だけど、気になったのは皆で遊ぼうという涼介くんの言葉かな。
当然、私たちはめぐみちゃんの友人だから、涼介くんがめぐみちゃんの彼氏である慶次くんを誘って、私たち2人と遊ぼうと声を掛けてくるのは不自然に思うし。
もう一度遊ぼうと誘うなら、同じように3対3なのでは?と考えるのが普通だから。
だから私は、めぐみちゃんは彼氏である慶次くんと別れていると推測している。必然的に、慶次くんと涼介くんは、めぐみちゃんに手を出した誠一くんとの縁をも切っているかもしれない。
涼介くんはすべてを把握しているかのようだ。もしかすると瞳が見ていたことも勘づいているかもしれない。・・・一層、彼への興味が出てきた気がする。今度会った時に情報の摺り合わせをするのが楽しみだ。つい口角が上がってしまうが気にしない。
そして、最後に私の決断を瞳に伝えた。
『私、それとなくめぐみちゃんにも聞いてみる』
『瞳がこんなにも考え込んで話してくれたことだもん、私も友達としてそれに応えたい。あの時私、何のことか分からなかったから気にしてなかったけど、実際の光景を見ていた瞳の話を聞いた今、無関心ではいられないよ。めぐみちゃんに何も聞かないままこれまで通りの友達の関係を続けたり、逆に距離を空けたりするのは私としても抵抗があるの』
無言で聞いている瞳には、もしかすると寝耳に水だったのかも。驚愕した表情を悟られないようにしていたからだ。
瞳は私の大切な友人であるように、めぐみちゃんも私の大切な友人であるから。彼女の人柄が好きだったことは今も変わりはない。
だからこそ、このままというのはもうダメだと思った。
めぐみちゃんが私や瞳に対して、しかと向き合うことが出来るのか?それが出来るならば私は・・・
話をしてくれた友人の瞳に対してこう告げた。
戸惑いの表情もあった彼女だったが、直ぐにやる気に満ちた表情に変わっていく。最終的に瞳の意志として、めぐみちゃんに話を聞く時は私も一緒にということになった。
そして決めた。
明日の放課後、めぐみちゃんに直接問おう。
さて、あの子は何て言うのかな・・・?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます