我求む、いつか誠実な恋愛を。

メリーさん。

第1話 物語は突然のNTRによって。

―—―目を覚ました瞬間、あまりの気分の悪さに憂鬱になった。


ズキズキと鈍い痛みが頭に響く。慣れないお酒をすっかりと飲み過ぎてしまった僕は、自分の家でもないにも関わらず寝てしまっていたらしい。記憶も曖昧あいまいだ。


主催した大学生同士の合コンで、勧められるがままにお酒を飲み続けたことに起因する。人生でも数えるほどしかお酒を飲んだことがない癖に、随分と派手な飲み方をしてしまったらしい。


定かではない記憶を辿ると、えらく盛り上がったこの居酒屋をいつ出たのかとか、会計は正しく出来ていたのかとか、ついでに今いるこの場所はどこなのかも分からなかった。


お腹の中は、何かモンスターがいるような感覚で、そのモンスターが絶え間なく蠢くようにグルグルと回っていて気持ち悪い。すこし気を抜くと吐いてしまいそうだ。


そんな満身創痍な僕であるが、薄暗い周囲を見渡すとカラオケルームにいることがわかった。



「・・・もー、そこに彼氏がいるのは知っているでしょー?」


声が聞こえる。

そのすっかりと聞き慣れた声を聞いて、僕は少しだけ安心した。


桐生めぐみ。僕の高校からの同級生であり、当時からの彼女である。人懐っこい笑顔が魅力的で、クラス内外で人気が高かった。当時の僕はというと、特に目立った生徒ではなかったし、至って普通の男子高校生だったと自覚している。

だからこそ、そんな彼女が僕に告白をしてきた時は焦ったものだった。



さて、そんな彼女は暗い部屋の中で、誰かと話をしている。



「寝てるし大丈夫だって。っていうか拒んでないじゃん」


ちゅっ。

狭く薄暗い部屋にキスの音が響く。


「もう・・・ダメなんだからっ・・・んんっ」


そんなまさかと思い薄らと目を開けて彼女を見ると、彼女である桐生めぐみが他の男とガッツリとキスをしていた。

言葉で拒んでいる割に、その手は確かに相手の腰に回している彼女の姿を見て、僕は唖然として何も出来なかった。


それにしても、彼氏である僕が寝ていたとは言え、同じカラオケルームの中でせっせと他の雄に媚びることはあるのかね?


ああ、男の声も僕にとって馴染み深い声だ。


それもそうだ。

合コンを開催するにあたって尽力したのは僕と彼女のめぐみ。お互いの知り合いを呼んだのだから。


今まさに僕の彼女に手を出している男は安本誠一やすもとせいいち。大学で仲良くなったメンバーの1人で、整った顔付きに爽やかな性格。

男女ともに人気があり、少し真面目で堅物気質なところがある僕をいつも引っ張ってくれて、頼りにしていた。


今回は、合コンで励まそうとめぐみと相談し、知り合いに声を掛けてもらって開催する運びとなったんだけど・・・。


ハッキリと言っておくが僕にNTR属性はないぞ。

確かにNTRモノのアダルト動画は好みである。ええ、そうですよ。


それでも今僕は、猛烈にんだ。実際に自分の身に起きるとこんなものなのか。


常にそれはモニター越しのものであったし、非現実的なモノだと理解し、安心して観ていたのだ。全ては創作フィクションなのだと。


・・・全く、今後NTRモノがトラウマになったらどうするんだよ。


どうでも良いことを考えながら目先のことを考える。

目の前の、今の今まで大切な存在であったはずの2人が急に見えた。

脳みそが溶けて機能しなくなったかのように戯れている2人を切り捨てることに迷いなどないと確信する。



案外、これら一連の出来事があっても頭の中は酷く冷静であった。最も、切り捨てられたのは自分かと思い直し溜息が出そうになるのだが・・・。



さて、部屋の中には僕と2人の他に3人。皆寝息を立てて眠っているようだ。寝たふりを続ける僕はこれからどうすべきかと、鈍い痛みを発し続ける頭を回転させる。


それにしても、僕の心境や取り巻く環境が複雑になっているのもお構いなしに、この狭く薄暗い部屋は騒がしい。


途切れることもなく、部屋のモニターには空気を読まないMCとアーティストによる、軽快なトークがカラオケルームに響いているのだ。


「DREAMチャンネル!」と可愛らしくMCがお決まりのフレーズを叫ぶんだが、どうかその通りであることを願うばかりである。

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