第2話 寝床を提供して頂けませんか?
声をかけてしまった『何か』にコンビニ弁当を渡す。その生物はパーカーのフードを脱いで、すごい勢いで食べ始めた。箸の使い方が分からないようで、割り箸をそのままおかずに突き刺しては顔に運ぶ。
[美味しいです、美味しいです]
口が無いのにどうやって食べているんだろう? 箸を刺したおかずを透明な顔にあてがうと、中の光の球が食べ物に近付いていく。
光の球におかずが当たるといつの間にか無くなって、光の球がムニムニ動く。まるで人間の咀嚼みたいに動くと、飲み込むような動作をしていた。
さっきまで白色に光っていた球が、黄色く光る。もしかして、感情で色が変わるのかな? どうやら喜んでいるみたいだ。
改めてその生物を見てみる。
フードを脱いだそれは、透明な顔の中に光る球体が入っている。頭に生えている髪は、銀髪かと思ったけどよく見ると白っぽい半透明の触手だった。
特に分かりやすいのがサイドにある2つの太い触手だった。最初はもみあげかと思ったけどよく見たら全然髪じゃない。それが、光の球のムニムニした動きに合わせて、どことなく嬉しそうにピコピコと踊っていた。
そして顔から下。そこだけはなぜか人間の女性と全く同じ姿だった。いや、むしろ顔だけが人間じゃないと言ってもいいかもしれない。見ようによっては人の体にクリオネみたいな生物が寄生しているようにも見える。
「君……でいいのか? 見たままを言って申し訳無いけど、その、人に寄生してるように見えるんだけど……」
弁当を食べ終えた彼女は、白い光を発光させながらこちらへと顔を向けた。
[寄生? この体は貰った物です]
貰った? どういうことだ?
その意味を考える前に、彼女が手を差し出して来た。
[食事を与えて貰いました]
礼のつもりだろうか?
恐る恐る彼女の手を握る。その手は生きている人間と同じようにほんのり暖かくて、柔らかかった。
普通だとこんな生物恐ろしくて逃げ出したくなるはずだけど、不思議と恐怖は感じなかった。少なくともその声からは普通の少女のようなイメージを抱いた。
[もう一つお願いがあるのですが]
「なんだ?」
[寝床を提供して頂けませんか?]
寝床? 未知の生物を家に連れて帰れっていうのか。いくら害が無さそうだからってそんなこと……できる訳ないじゃないか。
「ごめん。それは……流石に」
[そうですか。好意を受けたのでつい厚かましくお願いしてしまいました]
彼女は再び体育座りをしてフードを被る。その姿が自分の殻に閉じこもっているようで、寂しげに見えた。それに、その顔が見えないと、普通の女の子にも……。
この生物は1人なのだろうか。もし、人間の女の子が同じように1人でこの真っ暗な公園に取り残されるとしたら、俺は何も言わず立ち去るだろうか? こんな感じだと警察にも頼れないだろうし……。
それは……いくらなんでも最低だよな。
「君、どこから来たの?」
彼女は何も言わず上を指差した。その先にあるのは遊具の天井、空、その先は……。
「もしかして、宇宙から来たの?」
[真っ暗な世界から。宇宙と呼ぶのですか?]
「じゃあ君は、宇宙人?」
[分かりません。私は広い広いこの世界を飛び、辿り着いた場所で根付くだけの存在]
「元いた場所に帰れるの?」
[私は貴方の言う宇宙から降って来た。帰ることはできません。ここで私の生を全うするだけです]
嘘をついているようには思えない。この地球上には存在しない異物。そんな彼女だからこそ、信用できるような気もする。俺の知っている人間達のように人を騙したり、裏切ったりしない気がする。
すごく変なことだけど、そう思った。
彼女がどこで生まれ、何をしにここに来たのか。彼女のその首から下は一体何者なのか。
今まで失っていた好奇心という物が次々と湧いてくる。
「ここまではどうやって来たの?」
[夜、誰もいなくなってから移動していました]
よく見ると、彼女の靴はボロボロだ。
真っ暗な中、誰にも頼らず過ごしていたのか。
……。
「悪かったよ」
[貴方は何に謝っているのでしょうか?]
「さっきの俺の態度をだよ。家、来てもいいよ」
彼女が顔を上げる。彼女の光はうっすらピンク色の光を帯びた気がした。
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