第12話 ダメです!
一夜明けて日曜日。今日は布団が届く日だ。
「平日は掃除できなかったから綺麗に掃除して、布団を敷く場所を確保して……それからスマホかな。マキネは布団とベッドどっちで寝たい?」
[私が選んでも良いのですか?]
「いいよ。俺はどっちでも寝られるし」
[だったら……ベッドが良いです]
「ベッドね。それじゃあ布団が届いたらそっちのベッドに敷き直すよ。古いのは俺が使うから」
ベッドの上の布団を動かそうと立ち上がると、背中を引っ張られる感覚がした。振り返るとマキネが俺の服の裾を掴んでグイグイと引っ張っていた。
[だ、ダメです!!]
マキネの光が真っ赤に変わる。え、そんなに怒る?
ウチのベッドはマットレスの上に寝るタイプというより、組んだ骨組みの上に布団を敷くタイプだ。だから体感は何も変わらないはずなんだけど。
「なんで? 寝心地は変わらないよ?」
[このままが良いです。このままにしておいて下さい!]
「いや、そんなことさせられないからさ」
裾を掴む手を払って進もうとすると今度はマキネが俺の前に立ち塞がる。右を通り抜けようとすると右に、左を通り抜けようとすると左に行く手を邪魔して来る。
[シャ、シャーー!」
「……何それ? 何かのマネ?」
[猫は怒る時こう鳴くのです。一昨日窓から喧嘩している所を見たのです!」
サイドの触手が伸びて、獲物を狩る蛇のように俺の顔に突進して来る。
その触手……伸びるんだ……。
ただ威力は無く、俺の顔に当たってもペチペチ音が鳴るだけだった。
「わ、分かったよ。新しいのは俺が使うよ……」
[コレがいいのです!]
彼女は、ベッドにしがみつくと、赤い光をビカビカ点滅させながらさらに威嚇して来た。
「枕は……」
[ダメ!!]
結局新しい布団セットは俺が使うことになってしまった。
◇◇◇
2人で部屋を綺麗に片付け終わったタイミングで布団セットが届き、一旦押入れにしまってやっと一息着いた。
「はぁ……ちょっと休憩……」
昨日も今日も朝から動きっぱなしだったから疲れたな。明日また仕事だと思うと気が重いよ。
[ユータ? そろそろ教えて欲しいのですが……]
マキネがソワソワしながら言って来た。その触手も左右に揺れて落ち着きが無い。
「スマホそんなに楽しみだったの?」
[だって! ユータが外に出ていてもお話できるのですよね? 楽しみじゃない訳が無いじゃないですか!]
この色は……何色なんだ? うすだいだい? ペールオレンジ? とにかくピンクと黄色が混ざってる。すごく興奮してるのは分かるな。
「分かったよ。それじゃあスマホ出して」
彼女にスマホの使い方を教えて、チャットアプリも登録する。仕事中は電話に出られないからチャットアプリで連絡をもらうように念を押す。
「あ、でも緊急時は別だからね。その時は電話して」
[緊急時とはどういう時ですか?]
「マキネに何かあった時だよ。危ない目に遭ったり、体調が悪くなってしまったり」
[緊急時にユータに電話をするとどうなるのですか?]
「もちろん全力で駆けつけるよ?」
[なぜ駆けつけてくれるの、ですか?]
「え、なぜって……」
そんなことなんで聞くんだろう? 光の色らピンク色だけど、ボヤッとした感じでイマイチ彼女の感情が掴みきれない。
「うぅん。マキネに何かあったら悲しいから……かな」
[私が傷付くと悲しいのですか? なぜですか?]
何度も何度も質問で返される。そう言われると自信無くなるな……俺はマキネの為にどんなことでもしてあげたい。でもそれってなぜだろう? マキネを家に呼んだから? 同居人だから? 俺はマキネとどうなりたいんだろう……。
彼女を異性として見てる? でも彼女は人間では無いし、でも人間の中に溶け込もうとしているし、うぅん……。
「大事に思ってるから……じゃダメかな」
あ、なんかキザっぽいことを言ってしまった。
[そ]
「そ?」
[そんな言い方、ズルイです! なんでずっとずっとそんなに!!]
マキネが掴み掛かって来る。その色も赤、ピンク、黄色、オレンジと目まぐるしく変化していく。
「え、ちょ、ちょっと!?」
彼女が俯きながら俺の胸元に顔埋める。そして、ピンクとオレンジを交互に光らせながら、俺のことを見つめて来た。彼女には瞳が無いのに、見つめられていると確かに感じた。
[そんなに優しいんですか?]
彼女の顔がすぐ近くにあって、心臓がうるさいほど脈打つのが分かった。
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