(人を信じること無かれ その1)
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天井を支える柱の根元にそれをおいて、ロアは一度、キョロキョロと周りを見渡してから、何事もなかったかのようにアジトの大広間へと歩き出した。
捕まってからちょうど100日、それは取引通り、今日まで100人の人間をここに連れ去ってきたことを意味していた。
約束通りであれば、この後、晴れて自由の身になれるはずだが、ここのやつらがそう簡単に解放してくれるとはロアには思えなかった。
だが、そんなことは関係ない。彼女に必要だったのはこのアジトの中を自由に歩き回ることただそれだけだった。そのために、無茶をしてここのボスに彼女は反抗し、どうにか願いを聞き入れてもらったのだった。
その甲斐もあったものだとロアは人知れずほくそ笑んだ。
犠牲になった100人には申し訳ないが、自分の演技で騙されるぐらいのお人よしであれば、遅かれ早かれこうなっていた運命だろう。
そう考えながら、ロアの脳裏には鉄格子を掴んでいたさきほどのメリーという髪の長い小さな女の子の姿が浮かんでいた。
所詮、人間なんてものは信用ならない。彼女もそれをわかったはずだろう。
なのに、とロアは心のなかで毒づいた。なのに、あの子の目は、純粋にまっすぐ自分を射止めて来た。それがロアにはどうにも我慢できなかった。胸がぞわぞわとする感じだった。
とはいえ、もういい。どうせこの後どう転ぼうとも、たぶんメリーと会うことはないだろうし、裏切った相手と好き好んで話をしようとは思わないだろう。
たぶんメリーはまだ32年限前なんだろうな。だから今は分からなくてもこの先嫌というほど――。
俯いていた視界に広間の扉が入って、はっとロアは顔を上げて首を振った。
こんな雑念まみれじゃ、出来ることもできやしない。
一度、気合を入れるために頬を両手で叩いてから、両開きの重厚な扉を、ロアは渾身の力で押し開け、広間へと足を踏み入れた。
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