第9話 軟禁ですか?監禁ですか? その7
とりあえず、先輩のみなさんに倣って、私もクッションの上に横になりました。
すぐに鉄格子の扉の前まで行こうかとも思ったのですが、鉄格子の向こうの通路の奥の方から物音が聞こえて来たのと、なんだかお香のような匂いがするのが気になったのです。
じっと身を動かさずにいると、通路を歩く足音が聞こえてきて、続いてギィと鉄が軋んで擦れるような音、そしてギュムギュムと音が私のすぐそばまで近づいてきました。
「眠ったようだな」
「ああ、さっさと転がして戻ろうぜ」
そんな話声が聞こえたかと思うと、クッションの上をコロコロとしばらく転がされて、また、音は遠くへと離れていきました。
ようやく残響も聞こえなくなったところで、目をパチリと開けます。
すぐ前には、人の顔があって、ほんの少し体がビクッと震えました。
起き上がってみるとやはりというか、さっき見た眠っている人たちの横に移動されたようなのでした。
会話の内容と、ここに充満する匂いから察するに、おそらくこの空間は、人を深い眠りへといざなうガスのような何かで満たされているようです。
さっきの落とし穴から落ちたターゲットはそのままここで眠らされ、その時を待つといった段取りなのでしょう。
落とし穴はともかく、眠らせるというのは人身売買組織がよくとるやり方なのです。
足音に耳を澄ませつつ、扉の前まで行って、鉄格子に手をかけますが、ガタンっという音が響くだけで、もちろん開くことはありません。
とはいっても、あくまで格子なので腕を向こう側に突き出すぐらいの間隔はあります。ですので、出ようと思えば出れなくもないのですが、出たところですぐつかまっても仕方ありません。少しは様子を探るべきでしょうし、それにわざわざ私がここに来た意味もここにあるのかもしれません。
そんなことを考えていると、カツンッとかすかに音が聞こえてすぐさま元いた位置に戻って横になりました。
正直、しばらくは人は来ないだろうと高を括っていたので、若干、心臓がいつもよりも多めに拍動しているようです。
うっすらと目を開けて通路の方を見ていると、人が一人歩いてきて、この監禁部屋の前で止まります。
薄暗くてはっきりとは見えませんが背の高さと帽子のシルエットから、なんとなくロアさんの姿が思い浮かびました。
そう思うないなや、私は彼女の前まで駆け寄っていました。
「ロアさんっ」
両腕を向こう側に通してロアさんの手を掴みます。ですがすぐに強く振り払われてしまいました。
「な、なんでお前起きてるんだよ」
狼狽しているのかロアさんの声は少し震えていました。
「ああ、それは、私、こういう系統のものは効かないのです」
これも、不死身と同じく、私の固有スキルの2
「っく、まあいい。それで何か私に言いたいことでもあんの?」
「ここから出してもらえませんか?」
私がそういうと、アハハとロアさんは高らかと笑いました。言葉遣いといい、さっきまでのロアさんとはまるで別物です。
「ばーっか、出すわけないじゃん! 私が迷子を放っておけない優しい人だと思った? 大外れ! あっさり騙されてやんの」
腹を抱えて向こう側の壁を拳で叩きながらロアさんは大爆笑です。
「簡単に人を信じて裏切られるのに決まってるじゃん。そんなお前にはそこがお似合いだよ」
それだけ言うと、そのままロアさんはカツンカツンと靴音を鳴らしてここから去って行きます。
「あのっ」
鉄格子に顔を押し付けて、それなりに大きく呼びかけると、歩きながらですが、ちらりと一度こちらにロアさんは顔を向けました。
「私っ、ここにいますからっ!」
一瞬、眉をひそめるとすぐに顔をそむけて、すたすたと歩き去って、彼女の姿は見えなくなってしまいました。
さて、思い出した限りではここでの意味はほぼ果たしたようですし、しばらくはすることもないので、寝ている人たちのそばに戻って、私も横になりました。
そのうちいい案も思いつくかもしれないという楽観を抱きつつ、目を閉じて、私は自分の意識をより深くへと沈めていきました。
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