(罪悪と呵責の天秤 その1)
洞窟を抜け、地上に出るなり、ロアを舌打ちをした。
おかしいとは思っていた。途中まではたまたまなのかと訝しんでいたが、地上まで半分くらいまで来ても誰とも遭遇しなかった時点でほぼ確信に変わっていた。
そこからはまっすぐに隠れもせず、ここまでまっしぐらに走ってきたのだった。ちなみにメリアは走り出すなりつんのめったので、ロアが背負うことにしていた。
メリアいわく走れなくはないらしいのだが、実際に走ってもらうとあまりに遅かった。彼女に合わせても良かったが、どうせならとおんぶすることをロアが申し出たのだった。
あまりにメリアが落ち着き払っているので、ついつい忘れそうになるが、彼女はロアよりも頭数個分は背丈の低い、見た目の幼い少女なのだ。だが、実際にどれほどの年月を生きているのかは分からない。
初めは32年限前なのだろうと思っていた。でも、だんだんと違和感の方が大きくなっていった。
監禁されてた時の落ち着きようもそうだし、催眠ガスが効かないこと、また、グバンとのやり取りの中でも少し変だと思ったこともある。そして先ほどのメリア……。
少なくとも、その精神において自分よりもメリアが少ない年月を生きているとはロアにはどうしても思えなかった。
だから彼女が走れないこともロアには大きな問題ではなかった。むしろ、自分の考えを裏付けるものだとロアは思っていた。
ある種、自分とロアは同類なのかもしれない。
それもあともう少しでわかる。
洞穴を抜けた先で待っていたのは、こちらを取り囲むように立ちふさがる無数の人でなしどもだった。もちろんグバンの姿もある。
ここまで来させておいて、最後の最後に洞穴へと連れ戻す、なんともグバンの考えそうな、下衆な作戦だ。それでいてきわめて合理的だ。
「なあァ、よォく、ここまできたよなァ、ロッコぉ。でも残念だなァ、どうせェ逃げられるはずもねェのによォ。言っただろうォ、金になるモンってなァ。お前みたいなァ、レアスキル持ちわァ、高く売れるんだぜェ。ギャハハハハハハ――!」
グバンが笑うのに合わせて手下たちも下劣に腹を抱えて笑っているのが見える。
それを睨んでいると耳元で声が聞こえた。
「降ろしてください。私に任せて」
軽く頷いて、ロアはゆっくりとメリアを地面に降ろした。
「なんだァ? そのみすぼらしいガキはァ? スキルも持ってねェモンつれてきてェ、オレたちをよォ、どうこうできるってェ、思ってんのかァ? ギャハハハハハハァッ、とうとうアタマ、イっちまったかァ、ロッコぉ」
嘲るグバンとは裏腹に、ロアは内心確信した。その上で彼女はギュッと閉じていた重い口を開けた。
「グバン、てめえは、固有スキルのレアリティなんかが分かる固有スキルを持ってるな」
一瞬驚いた顔をグバンはしたが、すぐに先ほどよりもかえってニヤニヤした卑しい顔になった。
「そうだァ、こいつのおかげでェ、オレわァ、おまえらをモノとしてェ、売りさばけるってェワケだァ。せいぜい、おまえもォ、こいつにィ、感謝するこったァッ」
結局のところ、人を自分の欲望を満たす物としか見れないグバンには、どうあっても、身の丈以上のものを取り扱うことはできないということなのだろう。
ロアの固有スキルの
これは勘だが、おそらくレアより上の固有スキルは見抜けないだろうというのがロアの考えだった。その理由は単純で、ロアが生きてきた中で、自分の一つ上の『
それに引き換え、レアスキルの所有者はそれなりにいるというのがロアの所感だった。おおむね100人に一人くらいだろう。ちょうど鉱山で稀に手に入る鉱石と言ったところか。そう考えれば、全くもって不快だが、高値で取引される付加価値としてはレアスキルは妥当な所なのだろう。
エピック以上の固有スキルがどういうものか、ロアはもちろん知らない。
ただ、固有スキルというのが万能な物じゃないということだけは確かだ。
それは、ロアやグバンや、『不可逆視』のような固有スキルを鑑みてもわかる。使い方次第の代物で、ただ敵をぶっ飛ばすといったことはできない。
その性質自体は、レアリティが上がろうとも変わらないだろう。
しかし、ロアが昔両親に読んでもらった、おとぎばなしにはこんな一節があった。
『その者、己が力を使い、世界を滅ぼす、災害なり』
エピックの上にはレジェンドがある。これは、教会が発表している間違いのない情報だ。ただ、その上がいないなんて誰が知っているだろうか。
ロアは賭けた。
メリアのその、嘘のない言葉に。
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