第6話 軟禁ですか?監禁ですか? その4

「遅かったわね、どこで道草食ってたの? って……その子は……」


 テーブルからサンドライトさんに声をかけてきた人の目線が私に移って、止まりました。


「メリアちゃん! メリアちゃんじゃない! 大丈夫だったの!?」


 そう叫びながら、駆け寄って来てその女の人は私を抱きしめました。


「はい。おかげさまでこの街まで来ることができました」


 にっこりと私は笑いかけます。


 この女の人も、やはり、あの時、サンドライトさんと一緒にいた一人で、聖女っぽい見た目の方でした。


「立って話すのもなんだから、座って話そう」


 サンドライトさんに促され、先ほどまで女の人が座っていたテーブルに戻って3人で腰かけます。


「まあ、それにしても、私たちがやられたあと、どうなったの? やっぱりメリアちゃんが一人で討伐を……?」


「いえ。私たちを燃やして満足したのか、そのまま飛び去って行きました。方角的に外界に戻ったのかと思ってましたが……、その後の被害はどうなっていますか?」


 私は神妙そうな顔を作って、サンドライトさんと女の人の顔を見つめました。


「それが、姿かたちもなくなって、どこにもいないらしいんだよね。もちろん、いないことにこしたことはないんだけど、メリアちゃんが討伐したのかどうかがずっと気がかりでね。そうだよな、ルダンヌ?」


「そうなの。ギルドは私たちのパーティが討伐したって認定して、報酬を渡してこようとしたんだけど、メリアちゃんが討伐したのなら、もちろん、それはメリアちゃんが受け取るべきものでしょ? それで、ずっとメリアちゃんの行方を捜してもらいながら、ここに滞在してたの」


「そうだったんですね」


 そう言って、神妙そうな顔のまま二、三度、私は頷きました。


 レイさんの名前を出さずに、嘘を言ったのは、どう考えても、報酬なんかより自分の存在の秘匿の方をレイさんは優先してほしいはずだからでした。


 あれほど強いドラゴンを討伐できるのは世界にも数えるほどの人数しかいないでしょうから、そこからレイさんの存在がバレることは大いに考えられますし、そんなことはあってはなりません。

 

 それに、そもそもレイさんは報酬を受け取ったりはしないでしょう。彼女には必要ないものですので。


「それじゃあ、やっぱり、報酬はメリアちゃんが受け取るべきだね」


 えっ、と思わず疑問符が口をついて出てしまいました。


「だって、俺たちが倒れた後も生き残って、最後まで見届けたんだから、それはもちろん、メリアちゃんが受け取るべきさ。それでいいよな、ルダンヌ?」


 もちろんというふうに、笑顔で聖女っぽい見た目のルダンヌさんが頷きます。


 慌てて私は両手を胸の前で横に振りました。


「いえいえ。あのドラゴンが去って行ったのは皆さんの攻勢があってのものですから、私には報酬をもらう資格なんてありません」


「いや、ここは大人のメンツとして断じて、メリアちゃんに受け取ってもらうから」


 断固として動かざる様にサンドライトさんは胸の前で両手を組んで私を見ます。


 どうしようと、私が困って耳の後ろをかいていると、見かねたルダンヌさんが助け舟を出してくれました。


「サンドライト、私もあなたの気持ちだけど、メリアちゃんが困ってるでしょ。ここは意地を張らずに半分ずつ受け取るってことにしておきましょう。いつか返すことができるかもしれないし……。メリアちゃんも、それでいい?」


 これ以上、辞退してもかえって失礼に思い、頷こうとして、けれど思うところがあって、頭を下げるのを一度取り下げました。


「半分ずつではなく、私が5分の1でお願いしたいです」


「なんでまた、そんな中途半端な……?」


 怪訝そうな顔を2人はしていました。


「だって、皆さんは4人、私は1人なので、半分よりも4対1が妥当ではないしょうか?」


 あっ、というふうに2人は顔を見合わせました。そしてどこか悲し気で困ったような顔で私の方に向き直りました。

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