第7話 軟禁ですか?監禁ですか? その5

「それが……、杖を持ってた奴をメリアちゃんは覚えているかい?そいつは32を過ぎてたから、強制転生しちゃってね。

 もう一人の大盾持ちは、俺たちと同じで32年限前だから、一緒にリスポーンでこの街に戻ってきたのはいいんだが、こいつは今ままで一度も死んだことがなかったんだよ」


 そこで、一度言葉を区切って、サンドライトさんは俯いてテーブルの上に視線を落としました。


「まあ、あれが、あのドラゴンブレスが、最初の死なら仕方のないことかもしれないが、どうにもトラウマになったみたいでね。

 せっかくわざわざギルドを通した公爵からの依頼ってことで遠路はるばる来たのに、呼び止めるのも聞かずに一目散に我らが故国に帰っていきやがって。報酬もいらないってさ」


 サンドライトさんは苦々しげに眉間にしわを寄せて吐き捨てるようにそう言いました。


 やはりといえばやはりという話なのですが、サンドライトさんたちは他国からこのセレアーナ公国に来たようです。


 そもそも、あの外界から来たドラゴンではなく、こちら側の世界にいるドラゴンでも通常は固有スキルを持たない人が討伐するのは不可能に近いのです。


 しかしながら、セレアーナ公国には固有スキルを持った人間はほとんどいません。それは、国教において固有スキルを持たないことが教義の1つになっているからなのです。


 そのため、自国では解決できないような災害級の事象が発生した場合には、他国、より正確には宗主国であるネール王国を通して他国のギルドから、高ランクの冒険者を斡旋してもらうのがもっぱらなそうです。


 今回、サンドライトさんがセレアーナ公国に来たのも、そういった裏事情からなのだと思われます。


「そういうわけだから、メリアちゃん、報酬の分け方は3等分でいい?」


「はい、それでお願いします」


 ぺこりと私は頭を下げました。


「それじゃあ、さっそく受付の人に言ってくるから、サンドライトはケーキと紅茶、用意しといて。

 戻ってきたら、一緒にお茶をしましょう、メリアちゃん。あなたのこともっと知りたいの」


 そう言いながら、テーブルを離れて、一目散にルダンヌさんは走っていきました。


 サンドライトさんもお皿と紅茶を取りに、カウンターの方に歩いていきました。


 一人になった私は、紙とペンを取り出して、一筆したためて、テーブルの上にそれを置くと、足早にギルドを立ち去りました。


 2人と一緒にお茶をするのが必ずしも悪いという訳ではありませんが、ここでの目的は果たしましたし、むしろ、本来私がなすべきことはこの先にあります。


 お茶をするのはいつでもできます。


 けれど――。


 私は一度だけ、ギルドの建物を振り返ります。そして、再び前を向いた時には、街中に向かって自然と走り出していました。

 

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