3 ブラッドリー・モーガン 12
帰宅後、俺はアドルフの屋敷に電話を入れた。
『どうしたんだよ、電話を掛けて来るなんて珍しいな』
受話器越しからアドルフの声が聞こえて来る。
「まあな。どうだ? 明日久しぶりに乗馬をしないか?」
アドルフを外に連れ出して、記念式典パーティーの話をつけてやる。一応まだふたりは婚約中だから、あの屋敷でエディットの話題を出すわけにはいかないからな。
『う~ん……だけど、明日はエディットが来る日だろう? 俺はともかくお前まで不在だと‥‥…その、まずくないか?」
言葉を濁しながらもエディットを気に掛けている様子が伝わってくる。そんな煮えきららないアドルフの態度がますます気に食わない。
「エディットが来るのは10時過ぎだろう? だからやってきたらすぐに帰って貰えばいいじゃないか。そのまま馬に乗れるように厩舎で待ち合わせしようぜ」
『……そうだな。分かった、そうするよ』
「それじゃ、いつものように早めにエディットを追い返せよ? いいな?」
『分かったよ。また明日な』
「ああ、また明日」
そして俺は内心ほくそ笑みながら受話器を置いた。
やった! アドルフをうまく誘い出すことが出来た。よし、明日はふたりで近場にある湖にでも行ってみるか。
あそこなら滅多に人は来ないし、堂々と話ができる。絶対にふたりがパートナーを組むなんて俺は認めないからな……
****
翌朝、俺はアドルフがエディットを約束通り追い払えることが出来るか心配だったので、厩舎近くの林の中に身を潜めて様子を伺っていた。
「全く、アドルフめ……本当に律儀な奴だな」
厩舎の前では乗馬服を着たアドルフが腕組みしながらエディットがやって来るのを待っている様子だった。
すると思った通り、エディットが現れた。そして厩舎の前に立つアドルフと何やら会話を交わしている。
そしてエディットはアドルフに何やら紙袋を差し出してきた。
「エディット……またアドルフの為に何か作って来たのか?」
畜生、俺は一度だってエディットから手作りお菓子を貰ったことが無いのに……。
嫉妬で歯を食いしばる。
アドルフは何か怒鳴りつけた様子だったが、紙袋を受け取る。
……見え透いた演技だ。物心がついた時からずっとアドルフを見ていた俺には分かる。アドルフが演技をしているのが。
もっとも肝心のエディットは気付いていないだろうが。
エディットは気落ちした様子で、アドルフに背を向けるとトボトボと歩き去ってい
く。その後姿を追いかけたい衝動に駆られるが、ぐっとこらえる。
どうせ俺が何を言ってもエディットの心に響かないことは分かっているからな。
「こうなったら、何としてもアドルフにエディットを誘われるものか……」
一方のアドルフはエディットの姿が見えなくなると、厩舎の中へと入って行った。
俺もその後を追った。
アドルフは俺に気付くことなく、自分の愛馬に近付くと何やら語り掛けている。
「エディット……泣きそうな顔してたな。やっぱり悪いことしたから記念式典のパートナーに声を掛けてみようかな……」
そのつぶやきを聞いた時、俺は頭がカッと熱くなった。
「……ふざけるなよ、アドルフ……」
俺にエディットを誘えと言っておきながら、今度はお前が誘うって言うのか⁉
そうやって……俺を馬鹿にするのかよ? お前はこの先もエディットに選ばれることは無いだろうって、言いたのか⁉
気付けば、足元に落ちている石を拾い上げていた。
そして俺は迷うことなく石を投げた。
アドルフの愛馬目掛けて――
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