3 ブラッドリー・モーガン 13
俺が投げた石は馬の脇腹に当たった。
「ヒヒーンッ‼」
大きく馬がいななき、暴れ出した。
「ど、どうしたんだ⁉」
馬に石が当たったことに気付いていなかったアドルフは自分の愛馬を宥めようと体に触れた途端――
ガッ‼
大きく振り上げた後ろ足がアドルフの腹を直撃した。そのまま後ろに吹き飛ばされて床に叩きつけられ、四方に敷き詰めてあった藁が舞う。
そしてアドルフは倒れこんだままピクリとも動かない。
「……」
俺はその様子を物陰からじっと見ていたが……不思議と罪悪感は感じなかった。
多分、これで三回目だったからなのかもしれない。
「アドルフ?」
アドルフに遠くから声を掛けるも反応は無い。ふ~ん……意識が無いのか。
でもまぁ、死ぬことは無いだろう。何しろあいつが飛ばされた先には幸い藁が沢山敷き詰めてあったのだから。
「きっと、藁がクッションになって守ってくれただろう」
こんな事故になるとはあまり予想していなかったが……俺がやったという証拠は出てくることは無いだろう。何しろ、今までだって俺が咎められたことは一度も無いのだ。
「お前が悪いんだぞ、アドルフ。エディットを俺から奪おうとするお前が……」
身動き一つしない、アドルフに向けて言葉を投げると俺は厩舎を後にした。
アドルフがどうなろうと知った事か。仮に万一のことがあれば、俺がエディットを慰めればいいんだ。
そして、記念式典パーティーにもう一度誘えばいいのだから。
多分、この頃の俺は……もうすでに、どこか壊れてしまっていたのかもしれない。
アドルフをあんな目に遭わせておいて平気でいられるのだから――
****
アドルフが意識を無くして五日が経過していた。エディットは毎日アドルフの元へ足繁く通っている。
それが気に入らなかった。
畜生、これじゃ何の意味も無いじゃないか。いい加減アドルフを諦めさせなければ……よし、アドルフの様子を一緒に見に行こうと声を掛けて何としても説得してやる。もう、あいつのことは諦めろと——
それなのに、とんでもない邪魔が入ってしまった。それはラモンとエミリオだ。
あのふたり、俺がエディットに声を掛けているとあろうことかダーツに誘ってきた。
一緒に今日行く約束をしていた? う~ん……そう言えばそんな話をした気がするが、あいつらの話なんて半分まともに聞いちゃいないから内容なんて一々おぼえちゃいなかった。
――という訳で、俺はエディットとアドルフの屋敷に行くことを断念せざるを得なかった。
ふん、でもまぁいいか。又明日にでもエディットに声を掛ければいいだけの話だ。
多分アドルフの目が覚めることは無いだろう。仮に目覚めたとしても、誰のせいで馬に蹴られる事故が起きたか調べられないに決まっているのだから。
このときまでの俺は余裕の気持ちを持って構えていた。
けれど、その考えは大きな間違いだった。
アドルフは目覚め……あげくにすっかり記憶を無くしてしまっていたからだ——
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