3 ブラッドリー・モーガン 7
「くそ! 逃がすかよ! エディット!」
俺は急いでエディットの後を追った。絶対に今夜はエディットを最初のダンスパートナーにして……アドルフから婚約者の座を奪い取ってやる!
けれどようやく二人を見つけた俺の前で繰り広げられていたのはエディットがアドルフの婚約者になったと告げるヴァレンシュタイン伯爵の姿だった。
「えっ⁉」
ショックで思わず声を上げた瞬間、全員の視線が俺に注がれる。
「ブ、ブラッドリー……」
俺を見るアドルフの顔は青ざめていた。何でだよ! エディットと婚約が決定したって言うのに……何でそんな表情をしているんだよ!
ひょっとして、俺を哀れんでいるのか⁉
だから……俺はお前のそういうところが昔から嫌いだったんだよ!
「うん? 君は確かブラッドリー君じゃないか? どうした?」
ヴァレンシュタイン伯爵が怪訝そうに俺を見る。その時、俺は悟った。
今の自分は……完全に部外者だということに。
この場にこれ以上いたくなかった。こんな無様な姿を……よりによって一番見られたくないアドルフや、エディットに見られているなんて!
背を向けると、駆け出した。
背後からアドルフが追いかけてくる様子が分かったが、それでも俺は走り続け……いつの間にか会場の外階段のバルコニーまでやってきていた。
本当はこうなることは初めからは分かりきっていたのに、追ってきたアドルフを詰っていた。大声で怒鳴りつける俺をアドルフは必死で宥めようとしている。
アドルフは俺のことを一番の友達だとか何だか抜かしながら、一歩近づいてきた。
「こっちへ来るなよ! お前の顔なんか見たくもない! あっちへ行け‼」
足元に落ちていた小石を拾い上げると、俺は叫びながらアドルフに向かって石を投げた。
本当に悪意は無かった。ただ、あいつの足を止めたかっただけだった。
それなのに……。
自分に向かって飛んで来る石をアドルフは避けた。そして、そのままこちらを向きながら、あいつの身体がフワリと宙を飛んだ。
アドルフの目が驚愕で見開かれたまま、落下していく様を俺はただ見ているだけしか出来なかった。
「!」
ガッ!!
次の瞬間、激しい音が響き渡り……階段下で仰向けのまま倒れているアドルフの姿があった。
「……ア、アドルフ……?」
震えながら俺は倒れたままピクリとも動かないアドルフを見下ろして悲鳴を上げそうになってしまった。
ま、まさか……し、死んでしまったんじゃ……‼
真っ先に頭に浮かんだのは、殺人犯として警察に捕まる自分の姿だった。急いで辺りを見渡すと、人の気配が全く無い。恐らく全員パーティー会場で楽しんでいるのだろう。
目撃者がいないとなれば、こちらのものだ。とりあえず急いで大人たちの元へ戻ろう。
階段下で倒れたままピクリとも動かないアドルフをその場に残し、急いで会場へと走った。
このときの俺はアドルフの身を案ずるどころか、自分の身の保身しか考えていなかった。
そして、それはうまくいくことになる。
アドルフの機転の効いた演技のお陰で――
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