3 ブラッドリー・モーガン 6

 その後は俺の思う通りだった。

 

 何も知らないアドルフは、俺とエディットがどれだけお似合いだと思っているかを語りだした。

 やっぱり、アドルフはエディットに好意を寄せられていることに気付いていなかったのだ。アドルフが鈍い男で助かった。

 挙げ句にエディットが他の男子生徒に最初のパートナーにされるかもしれないから 探してきたらどうだとまで口にしてきた。

 

 だが、これは抜け駆けする絶好のチャンス。

 この卒業パーティーにはロワイエ伯爵が来ることは既に知っている。アドルフの親だって参加する可能性もある。

 

 もし、俺とエディットが最初のダンスで一緒に踊っている姿をアドルフ達の親が目にすれば、さぞかし驚くだろう。

 ひょっとすると二人の婚約話は無かったことにされて、俺とエディットが婚約をする話の流れになる可能性だってあるかもしれない。


 アドルフをその場に残すと、急いでエディットを探しに行くことにした――




****


「エディット……見当たらないな……」


 一体何処へ行ってしまったんだ? 早く見つけないと他の男に誘われてしまうかもしれない。いや、だけど一番俺が恐れているのはエディットが自分でアドルフにダンスを申し込むことだ。

 いくら俺がエディットのことを好きだということを知っていても、エディットにダンスを申し込まれては流石のアドルフだって断れないかもしれない。

 それだけは何としても避けなければ――!


 

 だけど、やっぱり運命は俺に味方してくれなかった。エディットを見つけることが出来なかったのだ。


「くそっ……! エディット……もしかして、もうアドルフのところに行ってるのかもしれないな……」


 だとしたら急がないと!

 今度はアドルフを探しに向かった。



 どれくらい会場内を走り回っただろうか。ついに俺はエディットとアドルフを発見した。二人は向かい合わせになって、何か話している様子だった。しかも何故か周囲には他の女子生徒たちも集まっている。


「いた! やっぱりもう二人は出会ってしまっていたのか!」


 だがまだダンスは踊っていないはずだ。


「あ! エディット!こんなところにいたのか? 随分探したよ!」


 俺は駆け寄りながらエディットに声を掛けた。こちらを振り向いたエディットは……酷く青ざめた顔をしていた。



 周囲にいた女子生徒たちの計らいで、ダンスホールへエディットを連れ出すことに成功した。

 俺は抜け駆けできたことにすっかり浮かれていた。だから気付いていなかったのだ。


 エディットがどれほど青い顔をしていたかということに。



「それじゃ、俺達も踊ろう!エディット」


 中央のダンスホールへやってくると、早速俺はエディットと手を組もうとしたその時……。


「ごめんなさい!私……ブラッドリー様とは……踊れません!」

 

 驚くほど強い力で、俺の手を振りほどくエディット。


「何でだよ……。そりゃあ確かにエディットに婚約を申し込んで断られてしまったけど……」


 気づけば女々しい言葉を口にしていた。するとエディットが目を見開く。


「え……?し、知っていたのですか……?」


「当たり前だろう? 大体、エディットと婚約したいって俺から親に頼んだんだぞ?断られたことだって聞かされてるさ! だけど……まだエディットに婚約者がいないならまだ俺にもチャンスはあるってことだろう?」


 エディットは俺の言葉にますます顔を青ざめさせていく。


「やっぱりエディットはアドルフがいいのかよ……?」


 つい、恨めしそそうな言葉が口をついてでてしまう。


「そうです……。ごめんなさい!」


 そしてエディットは俺をその場に残し、走り去って行った。


 アドルフのもとへ……。



 この時……俺が今までにない程に、アドルフへの憎悪を募らせたのは言うまでも無かった――


 

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