3 ブラッドリー・モーガン 5

 翌日――


 何食わぬ顔で俺は登校した。教室の中を覗いてみると、案の定アドルフとエディットは既に登校していて仲良さげに話をしている。


「おはよう、2人とも」


 背後から笑顔で声を掛けるとアドルフがいつも通り挨拶してきた。


「うん、おはよう。ブラッドリー」

「お、おはようございます」


 エディットは視線をそらし、明らかに動揺している。その姿を見て思った。

 やはり、エディットは俺からの婚約の話を聞いているのだと。あっさり拒絶されてしまったことは腹立たしかったが、それでも俺を意識してくれているのだと思うとそれだけで嬉しい気持ちになる。

 例え、それがどんな感情でも。やっぱりエディットが好きだ。絶対にアドルフなんかに渡すものか。

 

 大丈夫、アドルフは呆れるくらいお人よしだ。不本意だが、エディットを好きだと言う気持ちを打ち明け、譲ってくれと言おう。きっと奴のことだ。婚約者と言う立場から手を引こうとするに違いない。

 こうなったら、もうアドルフを利用するしかなさそうだ。


 そうだ。卒業記念パーティーの時がチャンスだ。その日にアドルフに俺はエディットが好きだと話すんだ。


 アドルフは俺のどす黒い感情に気付くことなく、笑顔で俺と話をしている。

 俺がエディットを好きだと告げれば、奴はどんな表情を浮かべるのだろう?


 今からその日が楽しみでたまらない――




****



 エディットに婚約の申し出を断られてから半月後――


 今日はいよいよ卒業記念パーティーだった。女子生徒達よりも早く会場入りしたのは男子生徒達。

 パーティ会場でアドルフに会うと、早速話を持ち掛けることにした。いきなり告白の話をするのはまずい。そこで中等部進学へ向けての話から始めた。お人よしなアドルフは俺達3人が同じクラスになれるように勉強を頑張ろうなどと言っている。

 その言葉に苛立ちが募る。俺が絶望的に頭が悪いのを知っているくせに、お前はそんなことを言うのかよ?


 そこでついに俺は例の話をすることにした。


「なぁ、親友のお前にだから話すんだけど……俺の話、聞いてくれるか?」


 わざと深刻そうな顔で小声でアドルフに話を持ち掛けた。


「いいよ、どんな話?」


 何も知らないアドルフが頷く。


「絶対誰にも言わないって約束するか?」


「分かった、誰にも言わないよ。それでどんな話?」



「うん……。俺、今日の卒業パーティーで……エディットに告白しようと思っているんだ。中等部に上がったら……彼女として付き合って貰いたいって。お前もエディットのこと好きだろう?だから先に伝えて置きたくて……」


「え……?」


 俺の言葉にアドルフの顔が青ざめる。やっぱり、こいつはエディットのことが好きだったんだ。

 その様子がおかしくて、笑いだしたくなるのを必死で堪えながら次の言葉を待つ。


 すると……。


「僕はエディットのことは友達として好きなんだよ。だから僕に遠慮しないで告白するといいよ。応援してるから」


 案の定、アドルフは笑いながら返事をした。


 奴はまんまと俺の策にはまったのだ――









 


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