3 ブラッドリー・モーガン 3

 見舞いに行ってみると、アドルフは意外な程元気だった。逆に俺の腕の怪我を気に掛けてくるくらいだったのだから。

  

 何だよ、学校なんか休んで俺に余計な不安を抱かせやがって。だから俺はあえて自分の左腕の怪我を大袈裟に痛がってみせながらエディットの様子を伺った。


 けれど、肝心のエディットは俺じゃなくてアドルフを見ている。それが非常に苛立ったが彼女は乱暴な男が嫌いだ。だから怒りを何とか抑えて、何食わぬ顔で俺達は笑いながら会話を続けた。

 

 そのとき――


「う、いたたた‥‥…」


 突然アドルフが顔をしかめた。


「どうしたのですか?!」


 エディットが心配そうに駆け寄るとアドルフは顔をしかめた。


「う、うん……わ、笑った拍子に……背中の傷が……」


「え?ちょっと見せて見ろよ」


 どうせ、大袈裟にしているだけだろう?そう思ってアドルフの背中を確認すると寝間着に血が滲んでいる。


 演技じゃ無かったのか……?自分の顔が青ざめていくのが分かった。


「ち、血が……!」


 エディットの顔も真っ青になっている。


「だ、誰か呼んでくる!」


 慌てて俺は部屋を飛び出した。違う……!別に俺はアドルフを傷つける為に石を投げたわけじゃない! まさかガラスが割れるとは思わなかったんだよ!


 その後、廊下を歩いていたメイドを捕まえてアドルフの部屋に連れて行くとエディットが泣きながら奴の背中の手当てをしていた。


 その姿を見て胸がズキリと痛む。


 駄目だ……このままじゃ……アドルフにエディットを取られてしまう……。



 このとき、俺は思った。

 そうだ。先手を打ってしまえばいいんだ。俺の家からエディットの家に婚約の申し出をしよう。

 俺たちは全員伯爵家だが、モーガン家が三人の中で一番格上だ。格上の家柄からの申し出ならロワイエ家だって断れないだろう。


 悪いな、アドルフ。エディットは俺の物だ。お前にだけは絶対に渡すものか。

 初等部を卒業する月になったら両親に話してエディットと婚約させて欲しいと頼もう。きっと、俺のいうことを聞いてくれるはずだ。



****


  数年後――


 

 卒業まで後半月後に迫ったある日、夕食の席で俺は両親に話を持ち掛けた。


「父さん、母さん。頼みがあるんだけど」


「何だ?ブラッドリー。また何か欲しい物でもあるのか?」


 ワインを飲んでいた父が俺を見た。


「うん。エディットが欲しい。ロワイエ家に俺との婚約の話、頼んで貰えないかな?俺、彼女が好きなんだよ」


 両親は大げさな程、驚いたけれども……俺の頼みを聞いてくれた。何しろ、両親もエディットのことを気に入っていたからだ。


 ざまぁみろ、アドルフ。お前がエディットの気持ちに気付かないからだ。


 今までお前の存在のせいで、俺がどれだけ苦しんできたか分からないだろう?

 だが、それももう終わりだ。


 エディットと婚約して、今度は俺がお前を苦しめてやるからな――

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