3 ブラッドリー・モーガン 2
俺が腕に傷を負った時、母はとても驚いて急いで主治医を呼んでくれた。
怪我の手当てを受けながら、何故こんな怪我をしたのかと主治医や母にしつこく尋ねられた。そこで棚の上の物を探していたら上にナイフでも置いてあったのか、落っこちてきて腕に刺さったのだと説明した。
母はその話を信じてくれたが、医者は怪し気な目で俺をじっと見ていた。恐らく俺の嘘を見抜いていたのかもしれない。
いけ好かない医者だ。
おまけに、さぞかし大きな怪我だろうと思っていたのに医者は「この程度の傷なら数日で治るでしょう。学校も普通に行けますよ」と言いやがった。
こっちは必死の思いで腕にペーパーナイフを突き刺したのに、大した怪我じゃないだって?
あんな医者はモーガン家の主治医に相応しくない。そこで俺は医者が帰った後に母親に訴えた。
「あの医者はヤブ医者だから主治医をやめさせてくれ」と。
一人息子で俺にめっぽう甘い両親が主治医をクビにしたのは言うまでもない。
ざまあみろ。俺がどれだけの覚悟を決めて自ら怪我をしたのかお前なんかに分かるものか。
****
その翌日――
本当は大げさな怪我に見せたかったことと、エディットとアドルフに顔を合わせにくかったので学校を休みたかった。
けれど、あのヤブ医者が「学校に普通に行ける」なんて言いやがるから俺は憂鬱な気持ちで学校へと向かった。
いつもアドルフもエディットも俺より早く登校していた。そこで教室の中に入らずに廊下から様子を伺うとエディットはいるのにアドルフの姿が無いことに気付いた。
「アドルフの奴……いないなぁ……」
まさか、怪我の状態が酷いのだろうか?だけど、今日は邪魔なアドルフがいない。エディットと二人きりになれるチャンスだ。
「おはよう、エディット。昨日は遊びに行けなくてごめん」
背後からいつもの様子でエディットに声を掛けた。すると振り向いたエディットの顔は何故か引きつっている。
「おはようございま……え?ど、どうしたのですか?その腕……」
エディットはすぐに俺の左腕に巻かれた大袈裟な包帯に気付いて尋ねてくれた。
そこで俺は自分がどのような状況で怪我したのかを説明した。
俺の話をじっと聞いてくれたエディットは怪我の具合を心配してくれた。やった!その言葉を聞けただけでわざと怪我した甲斐がある。
けれど、やはり気になるのはアドルフだ。
「なぁ、エディット。今日はアドルフ、どうしたんだ?」
理由は知っていたけど、何食わぬ顔で尋ねてみた。
「え?あの……背中を怪我してお休みになりました」
「ええ?そうなのか?一体何でだ?」
そして、俺はエディットの口ぶりからアドルフの怪我が相当重いのだということを知った。
どうしよう、大分これはマズイ状況だ。万一、俺がサンルームに石をぶつけた犯人だとエディットに知られたら嫌われてしまう。
いや、でもバレるはず無いだろう。誰にも俺の姿を見られていないのだから。
そんな事よりも、今は2人きりのチャンスを無駄にするわけにいかない。そこで俺はエディットに自分の家に遊びに来るように誘ってみた。
それなのに……エディットはあっさり断って来た。
「いいえ、折角のお誘いですが……放課後はアドルフ様のお見舞いに行きます」
「そうか?なら俺も行く!2人で放課後一緒に行こうぜ!」
絶対にアドルフと2人きりにさせるものか!
こうして俺は強引にエディットと放課後アドルフの見舞いに行く約束を取り付けた。
本当はアイツと顔を合わせにくい。だけど、エディットと2人きりにさせる方が耐え難かった。
大丈夫。アドルフは俺を親友だと思っている。だから犯人だと疑うはずない。
何せ、アドルフは馬鹿が付く程お人よしだからな――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます