2 湊の場合 7

 8月――


 高校1年の夏休み、俺は駅前のコンビニでアルバイトに励んでいた。



「おーい、佐々木!手が空いたなら品出ししてくれ!」

 

 昼時のピークの時間を過ぎた頃に、商品の補充をしていたオーナーに声を掛けられた。


「はーい!今行きます!」


 レジカウンターから出ると早速オーナーの手伝いを始めた。新しく入ってきた商品を陳列棚に並べていると、自動ドアの開閉音と入店音が店内に鳴り響いた。


「いらっしゃいませー」


 声掛けをしながら品出しを続けていると、不意に女性の声でレジの方から声を掛けられた。


「すみません、レジお願いします」


「はい、今行きます!」


 品出しの手を止めて、レジに行くとカウンターにレジカゴを置いた女性が待っていた。


「すみません、お待たせいたしました」


 レジに戻り、バーコードを読み取ろうとした時不意に声を掛けられた。


「あれ……?もしかして佐々木君?」


「え?」


 顔を上げて驚いた。そこに立っていたのは氷室さんだったのだ。


「氷室さんじゃないか!」


 彼女は中学卒業時よりも綺麗になっていた。まさかこんなところで会えるとは思わず顔が自然と笑ってしまう。


「へ~ここでアルバイトしていたんだね?そう言えば私達住所は割と近いのに一度も会った事無かったね?」


「言われてみればそうだな」


 商品をバーコードに通しながら平静を装いながら返事をするも、ここでバイトを決めたのはある理由があった。

 二人が利用する駅前の店でバイトをしていれば、いつか氷室さんに会えるのではないかと打算的な考えがあったからだ。

 でもその願いが叶うとは思ってもいなかった。


「はい、合計975円になります」


 氷室さんが購入したのは飲み物にスイーツだった。


「それじゃ1000円でお願いします」


 カウンターに1000円札を置く氷室さん。

二人分ずつあることが少しだけ気になった。そこで何気なく尋ねてみることにした。


「お兄さんの分も買ったのか?」


 すると次に衝撃的な言葉が彼女の口から飛び出す。


「ううん、違うよ。彼氏の分なの。今日家に遊びに来るんだ」


 え!?何だって!


「へ~そうだったのか。彼氏の分なのか」


 震える声を押さえながらお釣りをトレーに乗せた。


「うん、そうだよ。佐々木君は彼女出来たの?」


「いや~俺はまだかな?ハハハ……本当は欲しいんだけどさ」


 乾いた笑いをする。


「そうなんだ。それじゃ佐々木君に彼女が出来る事祈ってるね。バイバイ」


 氷室さんは手を振ると、笑顔で店から出て行った。


「ありがとう……ございました……」


 俺は告白する前に失恋してしまったのだ。


 何てことだろう?氷室さんの理想の相手は兄だと言っていたから……油断していた。彼女が選んだ男なら、俺なんかが到底かなうはずはない。


 この出来事は16歳の苦い夏の思い出となってしまった――



 

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