2 湊の場合 6
3月某日――
今日は中学生活最後の日、そう。まさに卒業式だった。クラスメイト達の中には既に感極まってか、涙ぐんでいる姿もあった。
担任教師が教室に現れるまでの時間、俺は2人の友人たちと話をしながらも氷室さんの様子をチラリと伺っていた。
彼女は親しい友人たちと楽しげに話をしている。
3年になっても俺は氷室さんと同じクラスになることが出来たのは本当にラッキーだったと自分では思っている。
「それにしても俺たち、ものの見事に全員別々の高校になったよな?」
友人の田中がため息をついた。
「そうだよな、でも仕方ないさ。俺たち全員推薦先の高校が違ったんだから。ところで佐々木……お前、また氷室さんを見てるのか?」
中島が俺の視線がどこを向いていたのか気付いたようで、からかい混じりに声を掛けてきた。
「え?あ!た、たまたま目に入っただけだよ」
照れくささを隠す為に、氷室さんから視線をそらせた。
「隠すなって、お前が氷室さんを好きなのに気付いていないと思っていたのかよ。それで?今日告白するんだろう?何しろ卒業式で、もう後が無いんだからな」
田中がニヤニヤしながら俺を見た。
「な、な、何言ってるんだよ!そんなことするはずないだろう!?」
告白だって!?多感な思春期の男が女子に告白なんて出来っこないだろう!
「俺はてっきり、修学旅行先でお前が氷室さんに告白するだろうって思っていたけどな〜。知ってたか?噂によると5人の男に告白されたらしいぜ?」
「そうか?俺は7人て聞いたぞ?」
全く、二人共いい加減なことばかり話して……。だが、俺は知っている。氷室さんは8人の男に告白されていた。けれど、全員あっさり断っていったのだ。
しかも振られた理由は全て共通していた。
『私の理想の男の人はお兄ちゃんだから』
氷室さんのお兄さんと言えば、かなり有名だった。この地区には県内でも屈指の名門高校がある。県立高校でありながら優秀な生徒が集まり、中には遠方から越境入学してくる生徒たちもいる。その高校出身で、しかも生徒会長をつとめていたのだから。
当然、氷室さんもその高校に入学することが決まっている。
一方の俺は……。
どうしても彼女と同じ高校に進学したい為に必死で勉強を頑張ったけれども、一歩及ばず断念せざるを得なかった。
「それで?佐々木。結局どうするんだ?告白するのかよ?」
ニヤニヤしながら中島が尋ねてくる。
「お前、1番氷室さんと仲良かったからな〜。お前なら告白してもOKもらえるかもしれないぞ?」
田中が煽って来るが、冗談じゃない。その手に乗るものか。
「しねーよ。するはずないだろう?俺と氷室さんは単なる友達同士なんだからな」
彼女の理想が兄なら、到底かないっこない。振られるのがオチだ。第一下手に告白して振られようものなら目も当てられない。
いくら卒業するからと言っても、俺と氷室さんは同じ地区に住んでるのだ。
街角でばったり再会……なんて可能性だっておおいにある。気まずい思いをするくらいなら告白なんてしないほうがいいに決まっている。
だが、密かに俺は考えていた。
もし、この先偶然氷室さんに再会出来たなら……そのときはダメ元で告白しようと。
けれど、結局俺の願いが叶うことは無かった――
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