2 湊の場合 1
3月も終わりのある日――
俺……佐々木
「さぁ、着いたぞ!今日からここが新しい我が家だ!」
父さんが大袈裟に両手を広げると自慢気に俺たち家族を振り返った。
目の前には真新しい2階建ての1軒屋が建っている。
「まぁ!本当に一個建て住宅に住めるなんて……嘘みたい!」
母さんが嬉しそうに笑った。
「ふ〜ん。なかなか良い家じゃない?まぁ学校がちょっと遠くなるのは嫌だけどね」
俺よりも4歳年上の姉ちゃんがスマホをいじりながら、対して興味無さそうにしている。
そりゃ、姉ちゃんはいいよ。何て言ったって、私立の高校に通っているんだから遠距離通学だって出来るだろう。それに遠いって言っても電車で40分も乗れば高校に通えるんだから、こっちから見れば羨ましいだけだ。
そこへいくと、俺なんかどうだ?仲の良い友達とも離れ離れになって、こんな中途半端な中学二年の新学期から他の学校へ転校なんて……。
俺は未だに家の中に入らずに、家の写真を取ったりして騒いでいる両親を呪いたくなった。絶対に転校なんかしたくないって言うのに、父さんは勝手に引っ越しを決めてしまった。
都心からのアクセスが良く、価格も安くてお買い得な物件を見つけたからと言って鼻息を荒くして家に帰ってきた父さん。あのときのことは今でも忘れられない。
確かに4人家族で2LDKは少し狭いかもしれない。何と言っても子供2人に部屋を占拠されてしまうようなものだから。
父さんは最近在宅の仕事が増え、その度に「自分だけの書斎がほしい」とぼやいていた。挙げ句にいっそ、俺と姉ちゃんを2人で一つの部屋を使えと言ってきたくらいなのだから。
当然俺は反発したし、姉ちゃんに至っては部屋に閉じこもって半日以上も立て籠もりした位だからな。
幾ら何でも、湊と同じ部屋に住むくらいなら一人暮らしをしてやると言ってヒステリックに喚き散らすのはどうかと思う。あんな女でも彼氏がいると言うから驚きだ。
きっと相手の彼氏は姉ちゃんの本性を知らないんだろうな。うん、絶対そうに決まってる。
勿論両親は姉ちゃんの言葉に驚き、二人して必死で宥めて何とか姉ちゃんを説得することが出来た。
思えば、姉ちゃんのあの態度が引っ越しをする1番のきっかけになってしまったのかもしれない。
そうだ……元はと言えば引っ越しの元凶になったのは……全てJKの姉ちゃんの仕業だ……!
ギロッと睨みつけると、逆に姉ちゃんが睨み返してきた。
「何よ。あんた。言いたいことがあれば言ってみなよ」
厚化粧につけまつ毛で睨まれると迫力がある。
「べっつに!」
「全く……弟の癖に姉を睨むなんて生意気なガキッ!」
姉ちゃんはスマホを眺めながら吐き捨てるように言いきった。
「フン!」
俺もわざとそっぽを向いてやった。これだから女は嫌なんだ。友人たちが女子の話をしていても、俺が全く興味を持てなかったのは全て姉ちゃんのせいだ。こんな気の強い姉のせいで女が苦手になったんだ。
「おーい!
父さんが嬉しそうに玄関前で手招きする。
「早くいらっしゃい!二人共!」
母さんがにこにこ顔で俺たちを呼んでいる。
「全く……いい年してはしゃいじゃってさ。でも今度は広くていいじゃん」
姉ちゃんはブツブツ言いながらも、満更でも無さそうな顔で玄関へ入っていく。
「ふん!3人供気楽でいいよな!」
俺は今から転校先のことで頭が一杯で悩んでいるって言うのに。
ため息を付きながら、俺も渋々玄関へ向かった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます