3 ブラッドリー・モーガン 11

「おーい、エディット!」


 廊下を出たところで、丁度運良くエディットが歩いてる後ろ姿が目に入った。


「何でしょうか?ブラッドリー様」


 エディットがオドオドした様子で振り返る。


「12月に創立記念式典パーティーが行われるだろう? もしパートナーがいないなら俺がなってやろうかと思ってさ。どうせアドルフには断られたんだろう?」


 恐らくエディットにはパートナーがいないだろう。何しろアドルフからアレだけ冷たい態度を取られているにも関わらず、未だにアイツに恋しているのだから。

 

 すると案の定、エディットは視線をそらせた。


「アドルフ様には……まだ声を掛けておりませんが……で、でももし、アドルフ様に断られたら、1人で参加します……」


 チッ

 その言葉に思わず舌打ちが出てしまう。幸いエディットには聞こえなかったようだが……。苛立ちを隠しながら俺は笑顔をを向けた。


「そうか……。アドルフからエディットを誘ってみろって言われたんだけどな……。まぁ、仕方ないか」


 するとエディットの肩がビクリと跳ねて、怯えるような目を向けてきた。その視線にわざと気づかなかいふりをした。


「でも、気が変わったらいつでも俺に声を掛けてくれよ。待ってるからさ」


 そのまま背を向け、走り去った。全くエディットは素直じゃない。

 だが、アドルフがパートナーになることは絶対ないだろう。きっと、土壇場になって俺にパートナーになって欲しいと頼んでくるに違いない。


 このときの俺は愚かにもそう考えていた――




 ****


 

 その日の放課後、俺とアドルフは辻馬車乗り場へ向かって歩いていた。アドルフは先程から何か俺に聞きたいのか、チラチラとこちらの様子をうかがっている。


「どうしたんだ? 何か言いたいことでもあるのか?」


 聞かずとも分かっていたが、あえて尋ねた。


「あ、ああ。エディットの返事はどうだったのかと思ってさ」


「何だ? やっぱり気になるのかよ?」


「別に……そういうわけじゃないけど……。それでどうだ? 当然エディットは承諾したんだろう?」


「いや、断られた」


「え⁉ そうなのか?」


 アドルフは余程驚いたのか、目を見開いて俺を見た。


「ああ、一人で参加するってさ」


 悔しいから、エディットがアドルフに声を掛けようとしているとは言いたくはなかった。


「ふ〜ん……そうか」


 それきりアドルフは黙ってしまい、後は俺が何か話しかけても上の空だった。てっきり理由を聞かれると思ったが、そんな素振りすら無かった。


 一体、何を考えているんだ……?


  


**



 辻馬車乗り場に着いたところで、突然アドルフが思いもかけない言葉を口にした。


「もし……エディットが一人で参加するって言うなら……」


「何だ? 今、何か言い掛けなかったか?」


「いや、なんでもない。それじゃまたな」


 アドルフはそれだけ言うと、さっさと空いている辻馬車に乗ってしまった。そして窓から顔をのぞかせてきた。


「ブラッドリー。また明日、来るんだろう?」


「ああ、そうだな」


 何しろ、毎日エディトがお前の家にやってくるんだから行かないはず無いだろう?


「そうか。……明日、もしエディットが来たら……記念式典パーティーのパートナーに誘ってみようかと思ってさ」


「え?」


 その言葉に血の気が引く。


「それじゃ、またな」


 アドルフはそれだけ告げると御者に馬車を出すように命じ、そのまま走り去っていった。


「……ふざけるなよ。アドルフ」


 気づけば、拳を握りしめていた。


「エディットを誘うだって? 冗談じゃない、そんなことさせるかよ……!」


 明日、エディットが来るよりも早くアドルフの屋敷に行ってやる。あの屋敷で話をするのはまずいから、何処かへ連れ出すか……。


 「お前にだけは絶対、エディットを渡さないからな……」



 俺は唇を噛み締めた――



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