第17話 友に嘘をつくわけにもいかず

「ま、そういうことだ。殿下は君に興味を持ったんだが、何せ話したこともない相手だから君のことをよく知らない、との仰せ。女の子のことならダリオに聞けばいいだろう――と俺にお聞きになったのだが、俺は残念ながら君にとっちめられたあとだった、と」


「それで圧迫面接ですか」


「そういうことだ」


 ダリオ先輩はあっさりと頷いた。


「……ハナコさんとは話し合いが必要なようですね」


 私は唸るような声を出す。

 ハナコさん、私を王子に売り込む……、とか言っていたが。まさか本当に売り込んでしまうとは。彼女のコミュ力の高さが恐ろしい……!


「でもいいんですか? 私は侯爵家の者ですよ。王子殿下には役不足では?」


「なにが言いたいのかよく分からないな。貴族を殿下に紹介することの何が悪いっていうんだ?」


「くっ……」


 爵位は理由にはならないか……。


「君は、アルベルト殿下が好きなんだろ?」


「……………………うぅっ」


 私は眉をくっと寄せてダリオ先輩を睨み付けた。

 好き……ではあるが、それはあくまでもゲームシステ上好きだったのだ。それをこんな、ドキワク乙女系話のカテゴリとして好きかどうかなんていわれても困る。


 でも、ここで『好き』ということにしておかないと、ハナコさんに言ったことが嘘になってしまう。ハナコさんに嘘はつきたくなかった。

 ハナコさんには一点の曇りもなく信じてもらいのだ、だって友達じゃないか……!


「君のことは異質だと思ったが、真っ赤になっちゃって。可愛いところがあるじゃないか」


「まっ、真っ赤になどなっていない……!」


 私は火照ってきた頬を感じながら意味のないことを口走る。

 別にこれは照れているから赤くなっているのではないのだ。単に予想外の出来事に困惑して、顔が充血しているに過ぎない。

 それをダリオ先輩ときたら、まるで人のことを恋する乙女みたいな言い方をして……!


 ダリオ先輩はにやりとした。


「はは、愉快愉快。ほんとに弱点なんだなぁ」


「……っ」


 私は悔しさのあまり、口元をきゅっと引き結んだ。目さえ潤んできてしまっている。

 くそう、私はこういう話題は苦手だ。……だから、これが弱点、というダリオ先輩の見立てはある意味当たっていた。


 ダリオ先輩は、私の表情を見て、さらに笑みを深める。


「よし、俺からも、君のことは良い様に殿下にお伝えしておこう」


「は?」


「俺の目を覚まさせてくれたお礼だよ。いつまでも母上の面影を追うな、と……、自分でも分かっていたんだがな。他人にビシッと言われるのは効いたぜ……」


 どこか遠い目をするダリオ先輩は、それでも笑顔になった。透明な、さわやかな笑顔だ。


「ありがとうな、ミシェール」


「……………どうも」


「君のような女性に出会えて良かったよ」


 私はまだ少し熱い顔をごまかすために、ふいっとそっぽを向いた。


「……どういたしまして」


「おーおー、青春だねぇ」


「っ、そういうわけでは!」


「まぁ、そういうわけだから。殿下と仲良くしてくれよ」


「う……」


 ダリオ先輩は爽やかな笑顔を浮かべると、私にウィンクをしたのだった。




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