第10話 女子トークをこなす愉悦

 前世の私は、本を読むのが好きでいろいろな知識だけなら人一倍頭の中に詰め込んでいた。しかし、それを生かすことができずに、無為に過ごしていた。


 それがこの世界に転生し、モブ令嬢としての自覚を得た。

 モブはモブらしく生きていけばいいとは思うのだが、私だってこの世界の人生を楽しんでもいいのではないか。


 ……具体的にいうと、始めて友達ができて、とにかく嬉しいのである。

 友達。そんなものが、この私にできるとは思いもしなかった……!


 彼女からは友達という名の神聖なる関係をいただいたというのに、私からは返すものがない。アンバランスはなはだしい。それならばギブアンドテイク、私はせめて、彼女に知識を提供しようではないか。


「いろいろありがとう、ミシェールさん!」


「いえ、どういたしまして」


 私に初めての経験をさせてくれたのだから、私の方が礼を言わねばならない。


「こちらこそ、私などの話を聞いていただいて、どうもありがとうございました」


 彼女は本をテーブルに置きながら――例によってその本はすっと消失した――、満面の笑みで私の顔を覗き込んできた。


「じゃあ、今度はミシェールさんの番ね!」


 彼女の明るい声に、私は眉根を寄せて首を傾げた。


「私の番、とは?」


「私の恋愛相談に乗ってくれたんだから、今度はミシェールさんの番だよ。ミシェールさん、好きな人とかいないの? 私、応援するよ!」


 私は虚を突かれた思いがした。

 恋愛相談のお返しは恋愛相談なのか。これが女子なのか。

 世の中の女子は、こんな思考回路になっているのか。前世も今世も友達なんて高尚なものはいなかったから、知らなかった。


 というか、今のは恋愛相談だったのか。


「……………………」


 さて、質問に答えなければならない。

 私は『好きな人』という議題について、自らの心に問うた。

 ……困った。特にいない。


 いや、ゲームシステム上、好きというべき人はいる、か。


「難しいですが、強いていうならアルベルト王子が好きですかね」


 彼の攻略が要求するパラメータの調整が、とてもやり応えあった。だからプレイしていて一番楽しかったのを覚えている。


「そうなんだ!」


 ハナコさんは目を輝かせた。


「カッコイイもんね! 金髪碧眼の王子様だもんね!」


「そうですね。彼は正統派の王子様として人気がありますね」


 ゲームプレイヤーの一番人気はアルベルト王子だったので、その事実を口にした。


「私、席が王子様の隣でよく話すから、今度さりげなくミシェールさんのこと売り込んどくね!」


「お気遣いなきよう」


 別にそこまで好きというわけでもないので……。


「うふふっ」


 突然、彼女は含み笑いをした。

 私、何か変なことを言ったのだろうか?


「すみません、なにか変でしたか?」


 なんだろう。女子の世界は難しいな。


「ううん! なんだか楽しくって。こっちの世界に来て不安だったんだけど、ミシェールさんと仲良くなれて良かったなーって!」


 そう言って笑うハナコさんはとても可愛くて。


「これからよろしくね、ミシェールさん!」


「はい、よろしくお願いします」


 私は彼女に微笑んで答えた。

 

 始めてできた友達である。末永く、仲良くしていこうと思った。

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