第13話 ランチという名の面談

 時は下って昼休み。

 食堂にて、きゃーっ、と女子生徒の歓声があがり、私の向かいに座ったダリオ先輩がそれに向かって笑顔で手を振る。すると女子生徒の黄色い悲鳴が一段と大きくなった。


「…………」


 私は、目の前で繰り広げられる光景を眺めながら、タラコスパゲティをくるくると巻いた。


 ハナコさんと会話をしていた一時間目の休み時間に、突然彼は現れた。

 ハナコさんにからみに来たのかと緊張する私たちを尻目に、彼は私に視線を集中させたのである。

 ミシェール、昼休みに二人でランチをとろう、と。断ることのできない圧を発しながら、彼はそう甘い笑顔でのたもうた。


 つまり私は、今、ランチと称して、食堂にてダリオ先輩からの面談を受けている最中だった。


 フォークに巻いたタラコスパゲッティをパクリと口に入れる。

 ……美味しい。丁度いい塩気だ。……あまり食に対しての関心はないのでこれくらいしか言い表せないが、本当に美味しい。

 さすが貴族学園、食堂のメニューも侮れないと感心しつつ、またフォークでくるくると巻き始める。


 そうしながら、私は目の前で甘ったるい笑顔で手を振る少年をそっと覗き見た。

 ダリオ・ローレン。……一学年上の騎士、ダリオ先輩。

 金褐色の髪にアイスブルーの瞳。整った顔立ち。筋肉質な体躯。

 本当に乙女ゲームの世界そのままのイケメンである。


 この人、アルベルト王子の次に人気のあるキャラクターだった。実際に見ても、やっぱり格好いいものは格好いい。

 こんなに格好いい人がハナコさんのストーカーをしていたとは……、ゲームシステム上仕方のなかったこととはいえ、残念至極であった。


 ダリオ先輩は私の視線に気づいたらしく、手を振るのをやめると私に視線を向けた。


「……失礼。ファンへのサービスはできるだけしておきたくてね」


「お気遣いなさらずとも結構ですよ。私にはタラコスパゲティがありますので」


 すると、ダリオ先輩はニヤリと笑った。


「君は変わっているな、ミシェール・ミスカ」


「……すみません、やはり食べずにおくべきでしたか」


 面談中に彼を放って食べていることを咎められたのかと思い、私は謝罪した。

 お腹がすいていたのでつい食べてしまったが、我慢しておくべきだったか。常識とは難しいものである。


「いや、そういう些細なことじゃなくて……」


 彼は言いあぐねるように首を傾げる。


「……ハナコも変わっていたが、君の場合はもう一段上というか、『異質』という言葉がピッタリだな」


「異質」


 私はその言葉を繰り返した。


 なかなかどうして、このダリオ先輩という人も鋭い。

 異質――すなわち、質が異なる、ということ。それはそうだろう。だって私はこの乙女ゲームの世界の外から転生してきたのだから。


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