第15話 ゲーム知識がなくても分かることです
「君については不可思議なところがある――」
言うと、ダリオ先輩は冷めてきたハンバーグを切り分けて口に運んだ。
水を飲み、私の顔をじっと見つめる。
「調べさせて貰ったよ、ミシェール・ミスカ。ミスカ侯爵家の長女――いまは兄と二人でタウンハウスに住み、学園に通っている。あとは、成績も平凡、交友関係も平凡、容姿も平凡。口数が少なく、これといった友達もおらず、特に目立つところもなく、いたって普通の女子学生。……まあ、一週間前までは、という期間限定付きだが」
キラリ、と得物を狙うような鋭い光を瞳に宿すダリオ先輩。
「一週間前に何があった? いや、言い方を変えよう。何故一週間前までは普通のフリをしていた?」
私はふうっと息をついた。
「買いかぶりですよ、先輩。友達を守るためなら、平凡な私でも少しは頑張ります。それだけです」
「へえ……。じゃあ、何故君は俺の秘密を知っていたんだ?」
「秘密?」
「……母上関連のことだ」
ああ、彼が亡きお母さまの面影を追ってプレイボーイになった、という設定のことか。
私は軽く頭を振った。
「……私は今からあなたを傷つける恐れのある発言をします。それはご了承下さい」
「なんだよ、物々しいな」
「あなたのお母さまが亡くなったことは周知の事実です。そして後妻さんが来たことも。その後妻さんとうまくいっていないことも、見る人が見ればすぐに分かります」
そう、別にゲームをプレイしていなくたって、これくらい分かることである。
あとは、その情報をもとに現状を導いていけば、すぐに答えは出る。前世知識を使うまでもない。マザーコンプレックス。彼はそれだ。
「私に言えるのはそこまでです。あとはあなたの問題なので、これ以上は何も言いません。……お食事中に失礼しました」
別に彼の問題に首を突っ込むつもりはないのだ。それはゲームヒロインの役割である。……もっとも、ゲームヒロインたるハナコさんはルカ先生に夢中だから、ダリオ先輩は、自分の問題は自分で解決しないといけないのだが。
「特別な情報網はない、と言いたいのか?」
「そうです。推理と推測と憶測、あとは現状を混ぜて導き出しただけです」
ダリオ先輩はしばらく私を見つめていたが、やがてため息をつくと言った。
「……信じよう」
「ありがとうございます」
「君は常人よりも洞察力がある、ということだな」
私は肩をすくめた。
「どうでしょうか。普通ですよ」
――何にせよ、前世知識というチートを使ったのは事実であるしね。
「……まあいいさ。君は異質だが、脅威ではなさそうだ」
「ええ、部は弁えていこうと思っています」
ゲーム知識を持ったモブ、それが私である。この世界が乙女ゲームの世界だと気づいている時点で異質であり、チートな存在だ。
持てる知識を友達であるハナコさんのために役立てたい私だが、私のこの世界に対する知識なんて、攻略に偏っている。しかもその知識の大半は数値管理に関する知識である。私はモブなのでイベントは起こせないし、攻略対象へのゲームヒロインの役割も果たせない。すべては我が友ハナコさん次第なのである。
「……正直、君のことはいまいちよく掴めないが……」
ダリオ先輩は眉根を寄せると、はぁ、とため息をついた。
「まあ、危険はなさそうだ。これなら殿下に紹介してもいいか」
「は?」
耳がおかしくなったのだろうか? 場にそぐわない単語がダリオ先輩の口から出たような気がしたけれども。
「……殿下って? いま殿下っていいましたか、ダリオ先輩?」
「ああ、言った」
「殿下って、誰ですか?」
「俺の主君のアルベルト・ベルファシオ第一王子殿下だ」
「おおう」
思わず変な声が出た。
何故ここでアルベルト王子が出てくるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます