第16話 ミシェールの弱点

 なんでアルベルト王子の名前が出てくる? どういうことだ?

 混乱する頭で、私はダリオ先輩を睨み付けた。


「どういうことですか、先輩。いったいぜんたい、なんの関係があるというのです。私とアルベルト王子の間に接点などありませんよ……」


 するとダリオ先輩は、プッと吹き出したではないか。そして、こりゃたまらない、というように声を出して笑い出す。


「あはははは……」


「笑い事ではありません」


「いや、すまない。君がそんなに慌てふためくとは思わなかったんだ」


 それから笑いを収めて、真面目な顔になると、ダリオ先輩は私を見た。


「君になくともこっちには理由があるんだよ。……というか今回のランチ会の目的はそれだ。君をアルベルト殿下に紹介してもいいかどうか、見極めようと思ったんだよ」


「見極めですと? 私なんかを見極めてどうするというんですか」


「――アルベルト殿下が、君に興味を持たれている」


 ハンバーグをパクリと食べて、彼はそう言った。


「は? なんですかそれは。なんで私が王子様なんかに興味を持たれなければならないんです」


 これがハナコさんならまだ分かる、彼女はゲームのヒロインなのだから。

 だが私はただのモブだ。それが最強ラスボスの呼び声高いアルベルト王子に、なんで興味なんぞを持たれたければならないのだ。


「へぇ……、なるほど」


 ダリオ先輩の水色の瞳がすっと細くなった。


「これが君の弱点か。ある意味ストレートに分かりやすいな」


「は?」


「好きなんだろ、殿下のことが」


 そのとき、ドキリと――痛くもない胸が疼いた。急に好きとかそういう話題を振られたら、生理的な反射でドキリとしてしまっても仕方がないだろう。


「……は? なんでそうなるんですか」


 震える声で問いただすと、ダリオ先輩はニッと口の端を上げた。


「しらばっくれるな。君、ハナコに取り持ちを頼んだよな? ハナコの態度を見れば分かる。バレバレなくらい君のこと推してるぞ、ハナコは」


「なん――ハッ!?」


 私は息を呑んだ。

 確かにハナコさんに、『強いていうならアルベルト王子が好き』だと言った覚えはある……!


「あ、あれはそういう意味ではなく……っ」


 そういえばハナコさん、『私、席がアルベルト王子の隣だしよく話すから、ミシェールさんのこと話しとくね!』とかなんとか言っていたっけ。

 有言実行、してしまったのか……!


「照れるなよ。別に恥ずかしいことじゃないだろ。誰かを好きになることは悪いことじゃない。そのうえ君はハナコのお陰で殿下に興味を持ってもらえたんだぞ。ハナコによーくお礼を言っておくんだな」


「くっ……」


 ダリオ先輩め、完全に勘違いしている。


 ……確かに、表層に現れた現象だけを追っていると、私は王子のことが好きなのだと思えてくる。自分でもそうなのだから、他人から見たらもうそのものズバリで、私が王子を好きなように見えてしまうのは当然だろう。


 しかしだからといって、こんなことになろうとは……!


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