第18話 親友という言葉
教室に戻ると、クラスメイトたちが一斉にひそひそとし始めた。
「あ、あの子戻ってきたわよ」
「あのダリオ先輩に呼び出されるなんて、何かしらね……」
「ハナコさんがらみじゃない?」
「そういえば最近仲いいもんね~」
「ちょっと雰囲気変わったもんね、ミシェールさんって」
その言葉にドキリとする。わ、私がハナコさんと仲が良いのはクラスメイトたちにも認識されていることであったか。
前世を思い出してよかった……、と私の胸は大いにときめいた。
私が転生前の記憶を思い出したことで、ミシェールの人格は大きく変わった。
記憶を思い出す前は、どこにでもいる平凡な少女だった。――友達はいなかったけれど。
思えば、それはまるで『その部分の設定がない』かのような、空白な交友関係だった。
おそらく、モブであるミシェールの設定は本当になくて、たまに一人で背景にいるだけのキャラクターとしてしか作っていなかった、ということだろう。
いてもいなくても同じ人間。背景と同化する、設定もないモブ。それが、以前の私だったのだ。
それが今や、私はクラスメイトも認識する、ヒロインたるハナコさんの友達なのだ。人生、何があるか分からない。
いや、人生何があるか分からないといえば、乙女ゲームに転生してしまったこと自体が驚くべき事件であるが。
「ミッちゃん」
つらつらとそんなことを考えている私に話しかけてくる者があった。この呼び方からも分かるとおり、もちろん友達のハナコさんである。
「どうだった……? ダリオ先輩からの呼び出し……」
「それなんですが……」
私は言いよどんだ。友に対し文句を言うことには慣れていない。というか、人生初めての経験である。
「ダリオ先輩は、その……」
どこからどう話せばいいのだろう。
ああ、とりあえず、ハナコさんを安心させてあげないと。
「……ダリオ先輩は、ハナコさんを完全に諦めたようです」
「そ、そうなんだ」
少しホッとしたように、ハナコさんは息を吐く。
「えぇ、私からのお説教が効いたと言っていました」
「あのしつこいダリオ先輩がそう言うだなんて。ハナコさんのお説教は天下一品だね!」
明るく笑うが、すぐにハナコさんは心配そうに眉を寄せた。
「でも、ミッちゃん、大丈夫?」
「……どういう意味ですか」
「だって、顔色がすぐれないっていうか、すごい強ばってる。なにかあったんでしょ?」
「……!」
わ、私の顔色を読んだのか! 前世では鉄仮面なんていわれるほど表情筋が死んでいた私である。今世では表情を気にしてくれる友達などいなかった。これはもう、プライスレス!
私は浮かれた気分に浸りハナコさんの気遣いに感謝しながら、なんとか微笑む。……心のままに浮かれるような状況でもない。
「大したことではないのですよ」
あなたのお節介――いや、気遣いでちょっと人生がややこしくなってしまっただけで。と、そのまま言うわけにはいかない。
「ハナコさん……、私のこと、アルベルト王子に話しましたね?」
とりあえずジャブを打つと、ハナコさんはこくんと頷いた。
「え? うん。すごく頭が良くて、可愛くて頼りになる親友がいて、その子が殿下のこと好きみたいだよ! って」
「ッ!?」
私は息を呑み込んだ。
王子に直接『殿下のこと好きみたいだよ!』と明るく話すハナコさんが容易にイメージされたから、ではない。
し、親友!?
いま親友って言った!?
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