第6話 新鮮なり、恋バナ
私は、前世においてもこういった女子トークを嗜むことはない人生であった。
乙女ゲームなどという女子力の高いものをプレイしていたのも、世間で女性たちに人気の乙女ゲームをプレイすれば、会社の同僚の女子に話しかけられたときに、せめても話題になるのではないか――との思惑からであった。
もっとも、私のプレイスタイルは世間一般の主プレイスタイルである『キャラクター推し』ではなく、攻略本片手に各キャラクターの攻略条件を一つ一つ埋めていくことに快感を覚える――という、世間の女子プレイヤーとは一線を画したスタイルであったのだが。
だから特定のキャラクターのファンになった、ということもなかった。
一番好きなキャラクターは誰か、と聞かれれば、ラスボスこと王子アルベルトだが――それは彼の攻略が要求するパラメータの調整処理が非常に歯応えがあって好きだったから、である。
で、なにが言いたいかというと。
こういう女子っぽいトークが自分にふられているだなんて、新鮮だなぁ、と感動していたのだ。
話題の中心は恋バナ。
しかも二人の秘密ときたもんだ。
自分がしているとは思えない女子トークである。
「……あのね。私、メガネ様が好きなの」
きゃーっ、言っちゃった! と顔を真っ赤にするハナコさんが可愛らしい。ダンベルの上げ下げもスピードアップしている。
「……メガネ様?」
私は小首を傾げた。そんな名前のキャラクター、このゲームにはいないから。
まあ、大方の予想は付くけれど。
「うん、私が付けた、ルカ先生の仇名。私、メガネ掛けてる人が好きなんだ。知的な感じに弱いんだよね。それにメガネ様って滅茶苦茶カッコイイしー!」
……あ、やっぱり。
そりゃそうだよな、と思う。メガネキャラは攻略対象においてはルカ先生ただ一人であったし。
それに、授業中もメガネ様――じゃなくてルカ先生のこと舞踏会に誘おうとしていた。
「でもメガネ様ってば、私のことただの生徒としか見てくれなくて……。うぅ、もっと頑張らないとダメだよね……」
しゅん、とハナコさんは肩を落とす。もちろんダンベルをせっせせっせと上下させながら、である。
「好きな人には好きになってもらえないのに、どうでもいい人からは迷惑なくらいモテるって。なんていうかさ、人生の縮図って感じだよね」
「ふむ。そうですね」
その人生の縮図、私には心当たりがある。ダンベルだ。
というか、もしかして彼女は本当に知らないのだろうか。この世界のイケメンたちの好感度は、パラメータによって左右されるということを。
「あーあ、人生ってうまくいかないよね~」
「そのダンベルの上げ下げをやめれば、ダリオ先輩は付きまとってこなくなると思いますが」
「え?」
「ですから、そのダンベルの上げ下げを――」
つとめて冷静にそう言うと、ハナコさんはハッとしたように目を見開いてダンベルの上げ下げをやめた。
「見えるの!?」
目をまん丸にして驚くハナコさんの迫力に押されつつ、私はこくこくと何度か頷いたのであった。
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