第12話 悪役令嬢の噂
「もしかして、あの人って有名な人なの?」
「そうですね。学業優秀、運動抜群、しかも公爵家のご令嬢という由緒正しきお家柄。学園でもかなり有名なお嬢様です」
――ローレリア公爵家の令嬢として、ライバル公爵家サティス家の養女となったゲームヒロインが気にくわず、何かにつけて突っかかってくる……という設定のキャラクター、アレイディラ・ローレリア。
つまりは攻略対象との恋を邪魔してくる制作会社が定めたライバル令嬢なのである。
ちなみにアレイディラ自身に決まった相手はいない。あくまでも、ゲームヒロインが好きになった攻略対象との仲を邪魔してくるだけなキャラクターである。
「そうなんだ。やっぱりすごい人なんだ……」
ハナコさんがしょんぼりした様子で言う。
それで私は、おめでとうございます、と口に出かかったのを飲み込んだ。
彼女が経験したことは、私にとっては既視感のある話だった。というか、前世で私がプレイした『空と誓いの狭間(フロンティア)』でそんなイベントがあるのだ。攻略対象とのストーリーを進めていると、ある日突然悪役令嬢が出現するのである。
つまりは、ハナコさんはそのストーリーイベントを経験したのである。
悪役令嬢がルカ先生がらみで出て来たということは、逆説的にいうと、ルカ先生のストーリールートが順調に進んでいるということだ。ルカ先生一直線のハナコさんには朗報である。
だがそれを言ったところで、ライバル令嬢の登場に面食らう彼女の気持ちをさらに傷つけてしまうだけだろう。
「まあ、彼女はすごい人ではありますが、ハナコさんなら大丈夫でしょう」
「でもメガネ様、かなり仲よさそうだったよ」
「ルカ先生にとって彼女はただの優秀な一生徒に他なりません。だから心配する必要はないですよ」
「そっかなぁ」
「そうですよ」
……ライバルである悪役令嬢の役回りは、ゲームプレイヤーに緊張感を与えることである。
学期末にあるテストで彼女に勝てば、その時点でいちばん友好度の高い攻略対象との特別イベントが起き、負ければ起きない、という具合だ。
一度や二度の負けは影響しないが、負けが続くと、ヒロインはエンディングで攻略対象にふられ、バッドエンドとなる。
これが全パラメータを高水準で要求するアルベルト王子ともなると、とても大きな脅威となるのだが、まあ、ハナコさんが攻略しようとしているのはルカ先生である。管理するパラメータが学力単一しかないのだから、まず負けることはないだろう。
「ハナコさんはアレイディラさんのことは気にせず、今はただひたすらに学力を上げるべきです。さすれば道は開かれるでしょう」
「……そうだね」
にっこり微笑むと、彼女は本を持つような仕草をした。すっと、手の中の虚空に本が生まれる。
「私、落ち込んでる暇なんかないよね! 頑張って学力上げないとっ!」
「そうそう、その調子です。なにかあったら私が話を聞きますので。今はとにかく、その本を読んで学力を上げて下さい」
「うん、ありがとう!」
えへへ、と照れたように笑うハナコさん。
「なんか心強いな。ほんと、ありがとうね、ミッちゃん」
「いえ、どういたしまして」
と笑い合う私たちに、甘ったるい声が掛けられた。
「……君、少しいいかい?」
ハッとして振り返ると、そこには、甘い笑顔のダリオ先輩がいた。
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