概要
――わらわは、きっといつか、お前の在る場所で咲こう
名門の相神家の長男・周は嫡男であるにも関わらずに裏庭の離れにて隠棲させられていた。
けれども彼は我が身を憐れむ事はなかった。
忘れられた裏庭に咲く枝垂桜の化身・花霞と二人で過ごせる事を喜んですらいた。
花霞はそんな周を救う力を持たない我が身を口惜しく思っていた。
二人は、お互いの存在がよすがだった。
しかし、時の流れは何時しかそんな二人の手を離そうとして……。
けれども彼は我が身を憐れむ事はなかった。
忘れられた裏庭に咲く枝垂桜の化身・花霞と二人で過ごせる事を喜んですらいた。
花霞はそんな周を救う力を持たない我が身を口惜しく思っていた。
二人は、お互いの存在がよすがだった。
しかし、時の流れは何時しかそんな二人の手を離そうとして……。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!美しく幽玄の庭にて
とにかく美しいのです。
この世のものとも思えない美を持つ幼い少女が、花簪しゃらりと涼しげな音を響かせ、桜の庭を舞っています。
もう最初から最後まで、隅から隅まで、作者さまの美意識が徹底されています。
お互いを想い合う、桜の精霊と、不遇な予備役軍人。
恋人。夫婦。そのような無粋な枠組みはこの二人には不要なのです。
ただひたすらに、お互いを大切に想い、一緒にいられる時間を噛み締め、相手だけを、想っているのです。
そんな素敵な関係性のうえに、目にも鮮やかな美しいシーンをこの作者さまは描き出します。
最後のシーンの、花霞の、美しいことよ。
読んだら、ちょっと忘れられなくなるくらいの美しさです。
…続きを読む - ★★★ Excellent!!!桜、舞う
僕はこの物語を読み始め、最初に「愛しさ」を感じた。
良作の条件とは、実に単純。それは読み手が作品を愛せるかどうかです。書き手が幾ら渾身の力を注ごうと、幾ら素晴らしい表現を用いようと、幾ら張り巡らせた構成を練り込もうと、良作とは読み手と書き手が、キチンと両想いにならなければいけないと思います。
僕が感じた「愛おしさ」は読み進めるにつれ、その姿を明確にします。ここにあるのは、無垢と淀みの対比。ただし、一言書いておくなら、無垢を生かすには淀みの深さがとても重要です。この物語にはその淀みとして、様々な怨讐がしっかりと準備されています。
その淀みの中に、美しく切なく儚く、そして見事な「愛おしさ」…続きを読む