とにかく美しいのです。
この世のものとも思えない美を持つ幼い少女が、花簪しゃらりと涼しげな音を響かせ、桜の庭を舞っています。
もう最初から最後まで、隅から隅まで、作者さまの美意識が徹底されています。
お互いを想い合う、桜の精霊と、不遇な予備役軍人。
恋人。夫婦。そのような無粋な枠組みはこの二人には不要なのです。
ただひたすらに、お互いを大切に想い、一緒にいられる時間を噛み締め、相手だけを、想っているのです。
そんな素敵な関係性のうえに、目にも鮮やかな美しいシーンをこの作者さまは描き出します。
最後のシーンの、花霞の、美しいことよ。
読んだら、ちょっと忘れられなくなるくらいの美しさです。
ぜひご一読を。
読まないなんて、もったいないですよ。
僕はこの物語を読み始め、最初に「愛しさ」を感じた。
良作の条件とは、実に単純。それは読み手が作品を愛せるかどうかです。書き手が幾ら渾身の力を注ごうと、幾ら素晴らしい表現を用いようと、幾ら張り巡らせた構成を練り込もうと、良作とは読み手と書き手が、キチンと両想いにならなければいけないと思います。
僕が感じた「愛おしさ」は読み進めるにつれ、その姿を明確にします。ここにあるのは、無垢と淀みの対比。ただし、一言書いておくなら、無垢を生かすには淀みの深さがとても重要です。この物語にはその淀みとして、様々な怨讐がしっかりと準備されています。
その淀みの中に、美しく切なく儚く、そして見事な「愛おしさ」が浮き彫りにされ、読む者の心を動かし、煌めく様に惹かれてゆくのです。
「愛しさ」とは、他者を想い、無償の愛を捧げ、時に力強く、そしてとても甘い。
僅か6話の物語ですが、数十万の文字を費やすよりも、潔く、完璧で、簡潔、そんな心揺さぶる物語でした。最終6話をお読みになる時、僕の言う意味をご理解して頂けると思います。
お勧め致します。
この物語はより多くの人に読んでもらいたい、僕はそう思いました。